第十九話「散策」
ベルクラント城下――
「アリスを好きになった。もちろん、父性的な保護者的意味でだ」
宮殿から出て城下を散策しながらフラッドがそう切り出した。
「はい。気持ちは分かります」
【うむ】
「だから絶対に殺させない。暗殺を絶対防ぐ。そう決めた。いいか、エトナ、ディー?」
エトナとディーも無言で頷いた。
「ありがとう……。あれだけ無垢で純粋な子供だと知ってしまったからにはなぁ……。見殺しなんてできないよ……」
「ですね。どのみち、防がなければならなかったんですから、私たちの破滅を防ぐためだけでなく、守りたい理由ができてよかったと思いますよ」
【だな。守りたくもない相手を守るよりは、守りたい相手のほうが死力も尽くせるというものだろう】
「それに、大司教めちゃくちゃいい人だったなぁ。なんか疑った自分が恥ずかしいよ……」
「まぁ、悪い人には見えませんでしたけど、だからといってそこまで信用するのは危険ですよ」
【エトナに同意だな。人をすぐ信じるのは主の美点でもあるが欠点でもあるぞ】
「そうかなぁ?」
話していると、フラッドたちを見たベルクラント市民がヒソヒソと口にする。
「あの人かっこいい……どこかのお貴族様かな?」
「でしょ、あのお召し物、すごく上等な生地が使われてるし……」
「もしかして王族……? お連れの人もすごく美人だし……」
その言葉が聞こえたフラッドはにこやかに手を振って応えた。
「ありがとう。私はドラクマ王国の辺境伯、フラッド・ユーノ・フォーカスだ! しばらくベルクラントに
「「「「キャー!!」」」」
黄色い声が響く。
辺境伯ほどの大貴族が庶民に気軽に声をかけることは通常ありえない。どころか手まで振ってくれるフランクさ、顔の良さに、中には失神する者までいた。
「目立ってどうするんですか」
「どうせ目立つなら思い切り目立っておいたほうがいいだろう。もしかしたらいざというとき、今声援をくれた者たちが味方になってくれるかもしれないし」
【なるほどな、アホなりに考えているワケだ】
「えっ……? 今アホ……」
「それよりフラッド様、城下でなにをするつもりですか?」
「いや、特に理由はないんだけど。予知夢だと一回も宮殿を出なかったから、前にはない発見ができるかも。と、思ってな。それよりもディー今お前俺のことあ……」
【そういうワケだったか。さすがは主だ】
「じゃ、とりあえず城下を散策して外に出てみますか?」
「うーん夜になる前に帰りたいから、そこまで遠出はしない感じで」
屋台で買い食いしたりしつつ、城門を出て付近を散策するフラッド。
「意外と山が多いな」
屋台で買った三色団子を食べながらフラッドが呟く。
「ですね。野盗が多いのも納得です」
【大軍に攻められにくい反面、勝手が悪くもあるな】
ベルクラントは山間部にできた盆地のような場所で、整備された街道を少しでも外れると山や森に繋がっていた。
「そういえば大司教見てて思ったんだが、俺にも護衛って必要じゃない?」
特に行先も決めず歩き出したフラッドがエトから受け取った水筒で喉を潤しつつ、そう切り出した。
【なんだ主、私では不満なのか?】
「そうじゃないよ。けど人間の護衛一人くらいいないと、ディーを連れていけない場とかで困るし、なにかあったときディーには俺じゃなく、エトナを守って欲しいんだ。が、そうすると俺が裸だ」
「私のことを想ってくれるのは嬉しいですけど、ありがた迷惑です。なにかあったときディーはフラッド様を守ってくださいね」
フラッドはエトナを第一に、エトナはフラッドを第一に、相い合う二人にとってそれだけは譲れぬものだった。
【なるほど……複雑だな……】
「だから、もう一人いれば解決だろう? ディーともう一人いれば、どっちかがどっちかを守ればいいんだから」
「まぁ、そうですね」
【だが、主には魔法があるだろう?】
「その魔法を俺自身が一番信じないんだよなぁ」
ため息を吐くフラッド。
「だいたい、ピンチにならなきゃ発動しない魔法って、そもそもそんな状況になってる時点でアウトじゃない? 俺一応守られる側の人間なんだし、自衛力があるのは結構なんだけど、その自衛力を発揮するのは最終手段だよね? という話だ」
「確かに。フラッド様にしては鋭い意見です」
【確かに、主のいうこともっともだ】
「だろ?」
そんな話をしていると、フラッドたちは、道の外れで行き倒れているらしきポニーテールの女を発見した。
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