第五話「なんやかんや大団円」

 その場の誰もがフラッドの死という最悪の事態が脳裏に浮かんだ――


 が――


 だからこそ、フラッドの魔法生存本能が発動する――


「…………」


 フラッドはあとコンマ数秒で自身へ到達する、男が握りしめた短剣の刀身の腹に右手の掌底を放って叩き折り――


「なっ?!」

「…………」


 間髪かんぱつ入れず、驚愕している自身へ触れるほど迫った男のみぞおちに左拳の寸勁すんけいを叩きこんだ――


「ごっ?!」


 ほぼノーモーションで打ち込まれた寸勁は、始終目撃していたカインや兵にすらなにが起こったか理解できぬほどの速さと威力で、男は吹き飛び、壁に叩きつけられ、意識を失った。



「…………あぇっ?」



 同時に《生存本能》が解け、意識を取り戻したフラッドは、自身へ向けられている驚きや尊敬が入り混じった視線の意味と、エトナが服の裾を引っ張って合図していることで、なるほど、とりあえずそれっぽく振舞おうと瞬時に理解・判断した。



「殿下、お怪我はございませんか?」



「ええ、貴方が守ってくれましたから……フラッド――」


 フロレンシアは目の当たりにするフラッドの強さに驚愕し、メロメロになっていた。



「流石はフラッド様……!」


「すげぇ……」


「こんなにお強いのか……」



 カインや兵たちも尊敬の眼差しをフラッドに向けている。

 当のフラッドは、調子に乗るどころか、自身でもなにが起こったのかよく分かっていないので、気恥ずかしい思いだった。



「……では、落着したことですし、お忍び視察へ戻るとしましょう。よろしいでしょうか? 殿下?」


「はい……。フラッドさえいいのなら……」


「もちろんです」



「ごっ、ご領主様……!! 申し訳ございませんでした!!」



 そこへフラッドをぶん殴った兵が前に出て土下座した。



「フッ――」


 微笑を浮かべるフラッド。



「カイン、お前たち、その兵を責めることは許さんぞ? 俺のために怒ってくれたんだ。褒められこそすれ、罰せられるいわれはない(ここまでされると悪いことしちゃった気分だし……)」



「フラッド様……はっ!」


 カインが返事をし、兵たちも頷いて応える。


「お前」


「はっ、はいっ!」


 土下座する兵士の肩に優しく手を当てるフラッド。



「俺のために怒ってくれてありがとう。だが、一つ覚えておけ。いい兵士というものは、感情ではなく、命令に忠実に動くものだ」



「はっ、ははっ!!」


 このとき、フロレンシアやカインや兵士一同はフラッドの寛大さと優しさに心打たれたのだった。


「では戻るぞ」



「はっ! 総員! 王女殿下、フラッド様へ敬礼!!」


「「「「はっ!!」」」」



 変装し直したフラッドたちは、兵たちからの敬礼で見送られた。



「本当に視察を再開してもいいのでしょうか……?」


 フロレンシアが不安そうに声を上げる。


「もちろん、殿下……フローラの気が済むまで、視察……いえ、遊びつくしましょう!」


 フラッドはその不安を払拭ふっしょくするように応えた。


「……! 嬉しいですわ!」


「いいだろう、エトナ、ディー?」


「仕方ないですね……」


【無論、我も供するぞ】


「おう! では出発!!」


 そうしてフラッドたちは日が暮れるまで街を散策し、遊びつくしたのだった。





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へりがる様が描いてくださったイラストはどれも筆舌に尽くし難いほど素晴らしいのですが、個人的にはサラをお姫様抱っこするフラッドの挿絵が特に好きで、恥じらうサラの表情が最高です!

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