第三十九話「災害後」
ベルクラント・離宮――
魔力竜巻によって宮殿の一部が損壊してしまったため、修理が終わるまでアリスたちは離宮に移っていた。
「ビザンツ帝国特使、カリギュラ・マルハレータ・ビザンツ第一皇女殿下!」
燃えるような赤髪に桜色の瞳を持つ美しきビザンツの才媛、カリギュラ・マルハレータ・ビザンツがアリスの前に進み出る。
「よくぞまいられたかりぎゅらどの。こたびのびざんつていこくのしえん、こころよりうれしくおもう」
アリスの言葉に跪くカリギュラ。
「ありがとうございます猊下。ですが、ベルクラントを助けるはサク=シャ教徒として当然の務め。礼は不要でございます」
先の魔力竜巻で被害を受けたベルクラントに対して、数多くのサク=シャ教国が支援を表明し、ビザンツ帝国やドラクマ王国もその一つであった。
「おもてをあげよかりぎゅらどの、なんじのかおをみたい」
「はっ!」
顔を上げるカリギュラ。
目と目が合う二人。
「…………」
「…………」
アリスはカリギュラの持つ覇気、強い意志を宿した瞳、容姿と所作の美しさに、今まで出会ったことないタイプ、王の器とはこういうものなのかと感じ取った。
「猊下、此度の災害でのお振舞い、このカリギュラ感服いたしました。
アリスを試すような微笑を浮かべるカリギュラ。
「そのことばうれしくおもう。だが、はははこをみすてない。あたりまえのことをしたまでだ」
「例え一人でも残された者がいたのなら、留まり続け、殉教するおつもりだったのですか?」
「むろんだ。かずのもんだいではない」
「殉教をたった一人のために用いられると?」
カリギュラの攻撃的な質問に枢機卿たちがざわつくが、当のアリスは落ち着き払い、誰の助言も受けずに答える。
「めのまえのものからたすけよ。さすればせかいをたすけることとなる。きょうこうでもいちしんとでも、そのおしえはかわらぬ。めのまえのものをたすけるちからがあるのなら、まようことはないのだ」
「なるほど……。愚問でした」
「かまわぬ。このぎもんにこたえることも、ははのつとめ」
カリギュラはアリスを高位枢機卿の操り人形ではなく、個を、自身を持っている。教皇として有能で優秀、神童だという噂は真であったと理解する。
「猊下、私にご用命があれば、なんなりとお命じください」
「うむ、ありがとうかりぎゅらどの。たよりにしているぞ」
「はっ!」
そうしてカリギュラは謁見の間を後にした。
離宮・フラッドたちの部屋――
「陛下からもご許可をいただいたし、カインへ支援部隊を送るように文を認めねば! アリスも助けられるしベルクラントに恩も売れるし一石二鳥だ!」
エトナをお姫様抱っこしていたフラッドがそう口にした。
災害後、数日経ち、予知夢でアリスが暗殺された日も過ぎたことで、フラッドは「やった……! これで未来を変えられた!」とすっかり
【主……いつまでエトナをそうしているつもりだ……?】
「俺が満足するまでだ!!」
「はっはっは! 殿にここまで想われるとは、エトナ殿は幸せ者だな!」
フラッドは自分の予想が当たってアリスと生死を共にすることを決めていたエトナに「それでこそエトナだ!」「だが、俺の知らないところでいなくなることは許さん!」「見捨てないで……」と、複雑な心境も相まって、暇があればずっとエトナをお姫様抱っこするかそばに控えさせていた。
エトナもこうなったフラッドを説得することは無理と理解しているため、満足するまで好きさせとこう。と、諦めていた。
「満足していないからな!!」
「フラッド様……流石にもうよくないですか……?」
気持ちは嬉しいが度が過ぎますよ? というエトナの視線に素直に頷くフラッド。
「むぅ……エトナがそう言うなら仕方ない……」
渋々とフラッドはエトナをおろした。
「とにかくカインに手紙書かないと」
机に向かうフラッド。
「可愛いカインへ。陛下と猊下の許可は取ったから、復興支援部隊を派遣してくれ。速攻で……違うな、なるべく早く……? うーん、大至急のほうが分かりやすいか?」
内容を声に出しながら筆を動かすフラッド。
【……黙って書けんのか?】
「可愛いいります……?」
「黙ってか……ちょっちょっちょっ、エトナ、ディー、声かけられると頭がこんがらがっちゃうからっ」
書き損じを捨て新しく書き直す。
「大至急で、迅速を……せっそくを……?」
「
「ナイスリンドウ! 大至急で拙速を尊ぶ、とにかく早ければ早いほどいいし、部隊員も優れていればいるほどいい。たたま……たたます……?」
「
「グッジョブリンドウ! 多々益々弁ず……。と。こんな感じかな? いや、一秒でも早くカインの顔を見たい。も入れておこう」
「顔を見たいのくだりはどういう意味ですか……?」
「え? そのままの意味だけど……? ホームシック気味だからな、ホントならサラにも会いたいが、それは堪えた」
【ゲラルトの名前も出してやれ……】
書き終えると
「よし、これでいいだろう」
手紙を渡された使用人と入れ違いで新たな使用人が入って来る。
「フォーカス卿、ビザンツ帝国第一皇女殿下が、卿との面会をご希望されております」
「えっ? カリギュラ殿が? というかなんでベルクラントに来てるの……?」
「ビザンツ……。アシハラにも名前が届くほどの大帝国ですな。そこの第一皇女殿と面識があるとは……流石殿!」
「まぁ、色々あってな」
「第一皇子なんか、一騎打ちしてボコボコにしてますからね」
「なんと! 殿はそこまでの豪傑であられたか!」
目を輝かせるリンドウ。
【とりあえず会っておいた方がいいだろう】
「そうだな、支度するか……」
「…………」
リンドウは無言のまま扉に目をやり鞘口に手をかけた。
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