第四十一話「なんか上手くいったフラッド」


「ふっ、それが本心ならお前はすぐさま処刑だ。そうなれば、お前は王国内ではどう呼ばれると思う?」


「売国奴として末永く汚名が残ることでしょう(なに当たり前のことを……うん? もしかして俺処刑される流れ?!)」


「(まさか失敗したとき一人で泥を被るため、死よりもよほど勝る、一生の汚名を覚悟で単身で、ここまで来たというのか……)驚くべき男だな……」



 二人の勘違いは何故か上手くかみ合いすぎていた。



「いいだろう、お前ほどの男を、このような場で殺すには惜しい。しかし、最初に言ったとおり、この侵攻を取りやめる決定権は私にはない。だが、帝都の皇帝陛下に、今回の侵攻は取り止めとしてもらうよう、上奏じょうそうしてやろう。その代わり、その返書が届くまではここに逗留とうりゅうしてもらう。いいな?」



 カリギュラはここでフラッドを殺して、フラッドの弔いと復讐に燃える戦意高揚なフォーカス領や王国軍に、勝利できるかも未知数な戦を仕掛けるよりも、フラッドを生かしてフラッドへ恩を売るという確実な利を選んだ。



「はい殿下のお心遣い、心より感謝いたします(えっ? 俺の亡命はどうなったの??)」


 そこで今まで黙っていたヴォルマルクが待ったをかけた。


「姉上お待ちください! 何故このような者の口先だけで、陛下の方針に異を唱えようとなさるのです!? この者は自分の命が惜しいだけの売国奴でございますぞ!!」



 カリギュラや幕僚たちは、ヴォルマルクがフラッドの真意を読めない愚か者。と冷ややかな視線を送ったが、実際はヴォルマルクがこの中の誰よりも、フラッドのことを理解していたのだった。



(なに本当のこと言ってんだこのバカ皇子!? いい奴だと思ってたのに!!)


「はぁ……。いつも注意しているとおりだ。お前は思慮が足りん。どこをどう見ればフォーカスがただの売国奴に見えるのだ?」


「姉上っ! お言葉ですか、こ奴はこの程度のはした金が賄賂になると思っているような、愚物ですぞっ!?」


 ヴォルマルクがフラッドの手持ちの金全てが入った皮袋を突き出し、幕僚がそれを受け取りカリギュラに見せる。


「フォーカス、聞くが、これは今お前が持つ全財産か?」


「はい。疑われるのなら、満足行くまでお調べください(やっぱり額が足りなかったか……)」



 カリギュラがため息を吐いてヴォルマルクを見た。



「はぁ……。ヴォルマルク、お前はこれをどう思った?」


「大バカ者かと、最初は侮辱されているかと思いましたが……」


「バカ者はお前だ。このはした金は賄賂ではなく、帰路を考えていない。命を懸けている。という意思表示だ。その程度も分からんのか?」


(えっ?! そんな意思表示してないが?! 普通に帰りたいし!!)



 意表を突かれた表情を浮かべるヴォルマルクとフラッドであったが、納得できないヴォルマルクが食い下がる。



「おっ、お言葉ですがこの者はそこまで深く考えてはおりませんぞ……っ!」


 失望したような表情を浮かべると、カリギュラは手を振った。


「もういいお前は下がれ……頭が痛くなってくる――」


「しっ、失礼します……っ」


 ヴォルマルクはフラッドに対する怒り心頭といった様子で下がっていった。


「愚弟が失礼したフォーカス。いや、フォーカス卿。我がカリギュラ・マルハレータ・ビザンツの名にかけて、この陣中にいる内は、兵や愚弟が其方たちに無礼のないよう、よく言い聞かせておく」


「ありがとうございます殿下(よく分かんないけど、なんか上手くいったぞ!)――」


 フラッドは本人も意図せぬところで、奇跡的なほど物事が上手く進むのであった。

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