第二十三話「これからと野盗」

「さて……これからどうするかの問題だが……」


 改めて今後どう動くか? 予知夢の内容を加味して相談を始めるフラッドとエトナとディー。


 流石に仲間にしたばかりのリンドウに予知夢・前世等の話はできない。するにしてもまだ早いとして隣室で休ませていた。


「大きなのは野盗と天災の二つですね」


 予知夢では魔力竜巻という魔力災害がベルクラントを襲い、城壁と宮殿の一部を破壊し、特に北部商業区画は壊滅的な被害を受けていた。


【天災が一番の問題だが……目下の問題は野盗か……。我々も遭遇したが、あれは分隊に過ぎんらしいからな。本体と団長を捕えない限り終わらんぞ】


 野盗によって高位枢機卿や大使が殺されることもあり、国際的な大問題となっていた。


「そうだな。今思えば野盗を跋扈ばっこさせたがために、アリスの立場が悪くなったことも確かだ。次に天災、これが致命的だった。確か、この天災騒ぎのどさくさでアリスが暗殺されたんだからな」


 前世では、アリスが何月の何日に暗殺されたのかという明確な情報は公表されておらず、暗殺が発表されたのは災害から数日後のことだった。

 一説ではアリスは殺されたのではなく、魔力竜巻を止めるため殉教したとも言われていが、真偽は不明である。


「でもどうするんです? 天災なんてどうしようもできませんよ?」


「魔力竜巻はどうしようもないなぁ……。そもそも魔力災害が起きる原理は分かっていても、対策する手段は見つかっていなんだし、俺が発見できるとも思えん……」


 魔力災害とは、自然界に漂う魔力が様々な要因で一か所に滞留し、一定量を超えると竜巻や爆発といった天災と化す事象を指す。


【いつ起きるか、被害の大きかった場所はどこか分かるが、どうやって説明するか。が、一番難しいな】


「だな……。この日に魔力竜巻が起きて、この区画が壊滅的な被害が出るぞ! なんて、言ったところでたわ言と思われて終わるだろう」


「一応フラッド様は神託の救世主ってことにはなってますけど、難しいでしょうね……」


「とりあえず、野盗を対策しつつ、天災はできたらできたで……。という感じか?」


【だな。では目下の目標は野盗を退治すること。できれば我々が主導で、こちらがベルクラントに恩義を売る形で。が、好ましい。ということか】


「ですね」


「おお……! 方針が見えて来たな! その路線で行こう! まずは野盗、できたら天災対策、最終的には暗殺防止だ!」


 今後の方針が決まったフラッドは安心してあくびを浮かべる。


「眠くなったんですか?」

「うん……ちょっと、な」

「どうぞ」


 エトナがポンポンと自分の太ももを叩く。


「うん……」


 頷くとフラッドはソファーに座るエトナに近づき、その太ももに頭を預け膝枕される。


「ディーも来い……」


 仰向けに膝枕されるフラッドが自分の腹を叩く。


【おいおい……私はこれでもドラクマの魔獣王なんだぞ……?】


「王にも休息が必要だろう? 俺の可愛い使い魔……おいで……」


【仕方のない主だな……】


 マスコット形態のディーはフラッドの腹の上に乗ると体と頭を下げてうつ伏せになり、フラッドがその背中を優しく撫でた。


「ディーが鳥に変身して野盗のアジトを割り出したりできないか?」


【できなくはないだろうが、私一人じゃ色々と難しいぞ】


「だよなぁ。前の帝国戦のときみたいに、魔獣たちに協力してもらうのはどうだろう?」


 フラッドの額に手を置くエトナ。


【できなくもないが……ベルクラントの神官共次第だな……】


「どういうことだ?」


【魔獣も人間と同じく、得が無くては動かんのだ。帝国戦の時は、主への報恩のためだった。だがベルクラントの魔獣たちは違う。ベルクラントに恩義も無ければ協力してやる義理も無い】


「確かにそうだな……」


【協力して欲しいなら、見返りが必要だ。それを用意できる、魔獣に対して頭を下げられる器量がベルクラントにあるのか? それが問題だ】


「なるほどな……ディーの言うとおりだ……。神託の救世主として、聖議に出席できる権利もある、から、タイミングがあったら切り出してみよう……」


 フラッドとディーはそのまま眠りにつき、エトナは長い間フラッドたちを見守り、風邪をひかないよう毛布を掛けて、自分もソファーで眠りについた。




 ベルクラントへ続く山道――


 そこにはベルクラントお抱えの大商人ツィベネアが、商品が積まれた荷馬車と共に長い隊列をなして私的に雇った護衛兵と共に進んでいた。


「まったく何度来ても嫌な隘路あいろだ。早く進め!」


 先頭の馬車が路上の真ん中に立つ一人の男に遮られる。


「いや~間に合った~危なかったなぁ……」


「なんだお前は、そこをどけ!」


 護衛兵がハルバードを向けつつ声を上げる。


「ツィベネア殿の商隊とお見受けする。おお、そこに見えるはツィベネア殿ではありませんか!」


 黒髪に髭を生やした二十~三十代ほどの長身痩躯の男が目を輝かせて、護衛兵の後ろにいるツィべネアを見た。


「お前は……まさか、元枢機卿のロデリク殿か?」


 男はロデリク・ミトラィユーズ。

 二十歳という若さで最年少枢機卿となるも、一年前突如としてベルクラントを出奔しゅっぽんし、行方が分からなくなっていた男だった。


「お久しぶりですね。お待ちしておりましたよ。積荷を置いていけば命は助けましょう。さぁ、降伏してください」


「…………噂は本当だったのか、最年少枢機卿が今では野盗か、堕ちたものだな」


「本当に堕ちているのは私でなくベルクラントなのですよ」


「ふん、聞く耳持たんよ」


「その積荷いただきますよ。随分と素晴らしい魔道具があると聞きましたので」


 ツィべネアの目が見開かれる。


「お前……どこでその情報を?」


「さて……?」


「殺せ!! 奴はただの野盗だ、遠慮はいらん!!」


 百名近い護衛兵が得物を構える。


「警告はしました。それでもベルクラントの味方をするなら、死んでもらうしかありませんね」


 瞬間、ロデリクの背後に無数の石が漂い、礫となって護衛兵たちを襲った。


「ぎゃっ!?」

「ぐばっ!」

「プレートメールを貫通するだと?!」


「怯むな! 奴の魔法だ! 数で取り囲め!!」


「愚かですねえ……」


 護衛兵が持ち場を離れロデリクに殺到した瞬間――


「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」


 木々の間から野盗たちが一斉に姿を現した。


「なっ!?」


 絶句するツィべネアが最後に見たのは、自身の顔面に飛んでくるつぶてであった。

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