第一話「死に戻り……じゃない?」
「はっ!?」
フラッドが目を覚ますと、そこはフォーカス邸の自室であった。
「どっ、どういうことだ……っ? 今は……いつだ……?」
部屋を見回すも、壁掛け時計から今が深夜であることくらいしか分からない。
「いや、そんなことよりっ……! エトナ……! エトナァアアアア!!」
フラッドはベッドから飛び起き、ナイトキャップを落としながら寝間着のまま部屋を出てエトナの部屋へ走った。
「フラッド様! どうされました!?」
途中フラッドの叫び声を聞きつけたカインが衛兵と共に血相を変えて駆けつけて来た。
「おおっカイン無事だったか!?」
突然抱きしめられたカインが混乱する。
「えっ? はいフラッド様! 賊ですか!?」
「賊っ?! サク=シャ軍はどうなった?!」
「さ、サク=シャ軍ですか……? 確か十年前に招集されたのが最後だったと記憶していますが……」
カインの反応からなんとなく今の状況を察するフラッド。
「ちなみに今日は何月何日だ!?」
「も、もう日付が変わりましたので、二月一日です」
「なるほど……」
だとするなら、今はサク=シャ軍どころか、ベルクラントへ行く前だと理解するフラッド。
「なるほどっ、すまないカイン。変な夢を見てな、少し頭が混乱していた。賊じゃない、騒がせてすまなかったな。ちょっとエトナに用があるだけだ」
ワシャワシャとカインの髪を撫でるフラッド。
「はっ、はいっ! 安心しました!」
「起こしてすまない、戻ってゆっくり寝るといい。カインはまだまだ成長期なんだから夜更かしは体によくない。あ、一応サラが無事か確認しておいてくれ、ちゅっ」
「はっ、えっ……あっ」
優しく額に口付けされ呆然とするカインをそのままにフラッドはエトナの部屋へ走った。
「入るぞ!!」
バァン――!!
「うわ、びっくりした。こんな真夜中に突然なんですかフラッド様」
起きてベッドの上で身を起こしていたエトナは、闖入(ちんにゅう)してきたフラッドを見ながらさして驚いているようにも見えない表情でそう口にした。
「エトナ……っ!」
フラッドはエトナを抱きしめた。
「…………なんか既視感がある展開なんですが……嫌な夢でも見ました?」
「嫌な夢を見たんだ!」
「…………やっぱり、ちなみにですが、私も見ましたよ」
「えっ? エトナも……?」
【……それは、教皇殺害犯に仕立て上げられて、ここがサク=シャ軍に攻め込まれる夢じゃないか?】
開けっ放しにしていた部屋のドアからディーが顔をのぞかせていた。
「ディー! なぜそれを?!」
「まさか、アナタも同じ夢を……?」
【の、ようだな――】
偶然ではない。二人と一匹は目と目で確認し、無言のまま頷きあった。
「長くなりそうですね。お茶を淹れてきます――」
そうしてフラッドとエトナとディーは腰を据(す)えて話し始めた。
「お茶を淹れるついでに確認してきたんですが、カインさんが言ったとおり、今日は二月一日でした」
「つまり、ベルクラントからの使者が来る前、ということか」
「そうですね。夢のとおりなら、明日国王からの使者が来るはずです」
【だとするとあまり時間がないな、これからどうする?】
フラッドは頭の中である程度整理をつけてから口を開いた。
「まず、一つ確認しておきたいのは、エトナとディーも俺と同じ内容の夢……? を見た。ということでいいんだよな?」
「そうですね」
【だな】
「そもそもあれは夢なのか……? それとも前世のときみたいに死に戻ったのか……?」
「うーん、難しいところですね。前世と違って死んだワケじゃありませんし……」
「確かに……絶体絶命だったが死んではいなかったな……」
【まぁ、とりあえず予知夢的なものと仮定して話を進めよう】
ディーの提案に頷く二人。
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