第五十三話「決戦・二」


 フォーカス軍本陣――


「今です!! 両翼騎兵突撃!! 魔獣鳥も敵軍中央に対して火炎筒の投下を願います!!」



 カインの指示で、林に伏せていたフォーカス軍騎兵が中央軍に殺到する帝国軍の背後を突き、魔獣鳥が焼夷しょうい剤の入った火炎筒を敵歩兵隊に投下する。



 チャラカ平原――



「ぎゃあああああああ!!」

「あづいあづいっ!!」

「なんで後ろから敵がっ!?」



 背後を急襲され、中央に火炎筒を投下された帝国軍は瞬く間に大混乱に陥る。



 帝国軍本陣――


「どうなっているのだ我が軍は!?」


「伏兵が読まれていたようです!! さらには魔獣鳥による火炎筒の投下により、統制を失っております!!」



「バカ者共めが!! 俺が出る!!」



 ヴォルマルクは今回の侵攻軍の最精鋭部隊であり、後詰ごづめでもある、自身の近衛を率いて中央へ突撃を仕掛けた――



 チャラカ平原――


「ぎゃっ?!」

「ぐべっ!!」

「ぴょっ?!」


 ヴォルマルク率いる近衛隊が、帝国軍を半包囲しているフォーカス軍騎兵隊を食い破る。



「ヴォルマルク殿下だぁ!!」

「皆、立て直せ!!」

「この戦勝てるぞ!!」



「このヴォルマルク・シャルナゴス・ビザンツに敵うものがいるか!!」


「若造めが!! 調子に乗るでないわ!!」



 ゲラルトが突出するヴォルマルクの前へと進み出る。



「老害が!! 引導を渡してくれん!!」


 二人が数合すうごう剣戟けんげきを重ねるが、ヴォルマルクの実力はゲラルトを遥かに上回っていた。



「お前たち如き魔法を使うまでもないわ!! 死ねぃっ!!」


「ぐふっ?!」


 ヴォルマルクの一撃がゲラルトを捉え、胸から血を流し倒れるゲラルト。



「ゲラルト様がっ!!」

「兵長?!」

「終わりだぁっ!!」



 一気に動揺するフォーカス軍へ、勢いを取り戻した帝国軍が猛攻をかける――



 フォーカス軍本陣――


「まずい……このままじゃ……っ!!」


「……落ち着けカイン」


 動揺するカインの両肩に優しく手を乗せるフラッド。


【ふむ……整ったようだな。私は少し失礼するぞ主よ】


「えっ!? 待ってください、アナタがいなければ……」


【悪いがそれは無理だ】


 そう言って引き留めようとするカインを無視して、ディーが本陣を後にする。



「でぃ、ディーがいないと……! いや、中央の混乱をどうにかしないと……!!」



 フラッドは負けを覚悟して、息を大きく吸い込むと、剣を抜いた。


「ふっ、フラッド様、なにを……?」


「なに、ヴォルマルクが来て敵は勢いを盛り返した。ならば、俺が行くだけだ――」


「そんな、無茶ですっ!!」


「フラッド様……」



 動揺するカインに、すべてを受け入れた表情を浮かべるエトナ。



「すまんエトナ、後は頼む。まぁ、俺は死なんがな」


「……はいフラッド様、ご武運を――」


 滅多に見れないエトナの笑顔を見たフラッドは、満足そうに微笑み返すと馬に乗った。



「皆俺に続けぇ!! フラッド・ユーノ・フォーカスここにあり!!!!」



 フラッドが親衛隊を引き連れて中央へと斬り込む――



 チャラカ平原――



「「「うおおおおおお!!」」」


 フラッド率いる親衛隊が到着するとフォーカス軍の士気が上がり、混乱が解けていく――



「帝国軍共!! フラッド・ユーノ・フォーカスはここだ!! 誰か俺を倒せる者はあるか!?」


 フラッドは親衛隊の後方で敵や味方の注目を集めるため声を張り上げる。



「おお!! フラッド様だ!!」

「フラッド様のために!!」

「フラッド様のおかげで家族が助かったんだ!!」

「一飯の恩義は命よりも重い!!」



 フォーカス軍が盛り返すが、それでも兵力差もあって、徐々に帝国軍に押されだす。



「くっ!? ダメなのか!!」



「はっはっはっ!! ここがお前の死に場所だフォーカス!!」



 帝国軍に押し返されかけた刹那――



【魔獣王推算!! 今よりフォーカス領の魔獣は恩義のため、フォーカス軍に助太刀する!!】



 現れたディー率いる魔獣たちが帝国軍に襲い掛かかる。


 魔法を解いた全力のディーが帝国軍の兵を蹴散らし、それに続く大型肉食魔獣たちも帝国軍兵士を次々と牙や爪で狩り取り蹂躙じゅうりんしていく――


「ばっ、化け物!!」

「なんで魔獣が!?」

「うわあああ!!」



「ディーか?! ありがたい!!」


 フラッドの声にディーが応える。


【我ら魔獣は受けた恩は忘れん!! 今こそ報恩の機会よ!!】



 魔獣たちは大型魔獣と小型魔獣も連携しあって帝国軍を攻撃する。


 流石の戦慣れした帝国軍も、魔獣相手には対処が分からず動揺し、動きが鈍る。



「どっ、どうすんだよ?!」

「知らねぇよ!!」

「ああああああああ!!」



「落ち着けバカ者ども!! 魔獣如きがなにするものぞ!! この帝国一の勇者!! ポムポム・ペインの後に続けぇ!!」



【我に立ち向かう勇気、敬意を表すぞ人間!!】


 ザンッ―!!


「ぎゃあああああ!!」


 ポムポム・ペインはディーの爪によって斬殺された。



「なっ?! どっ、どうなっている!!」


「魔獣とフォーカス軍に包囲されています!!」


「なんだとっ?! 脱出は!?」


「難しいかと!!」


「クソがっ!!」


 動揺するヴォルマルク――



 戦場を俯瞰ふかんできる場所――


「……このままでは帝国は負けますね……それではこちらの計画が狂います……」


 フードの人物はそう呟くと転移魔法を発動させた。



 フォーカス軍本陣――


「さて……手薄で助かりました――」


 ウロボロスのペンダントを光らせたフードの人物は、音もなくフォーカス軍本陣へ姿を現し、背後からエトナの腕を掴んだ。


「?! 敵っ!?」


 エトナは咄嗟とっさに引き抜いたナイフを背後の人物へ振るうが、掴まれた腕から電撃のような魔法を流され、全身に力が入らなくなる。


「あ……っ?!」


「なっ、誰だっ!! 衛兵!!」


 カインも闖入者ちんにゅうしゃの存在に気付き剣を抜く。


「残念ながら、もうアナタには利用価値がないのですよ」


 フードの人物は、カインに対してつまらなそうにそう発した。


「何者ですか……? アナタは……?」


「さぁ誰でしょうね――」


 そう言い残してフードの人物は転移魔法を発動させ、エトナを連れて消え去った――

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