第九話「帰還」

フォーカス領・領都アイオリス――


「よいか捜索隊よ!! どのような手を使ってでも必ずフラッド様を探し出すのだ!!」


「「「「はっ!!」」」」


 フラッドが金目の物を持って出奔しゅっぽんした。と、クランツがゲラルトに告げ、ゲラルトはこのままではフラッドは処刑され、フォーカス家が断絶すると危惧し、即座に捜索隊を結成したのだった。



「うん? どうしたゲラルト、これはなんのための部隊だ?」



 そこへ丁度フラッドが帰ってきた。


「若様捜索のための部隊……って、若様っ!?」


「どうした、そんなに驚いた顔をして(もしかして裏切る準備でもしていのか……?)」


「いっ、いえ、若様が出奔しゅっぽんなされた……というデマが流れまして……」


「なんだとっ!? そのようなデマを流したバカ者は誰だっ!?」


 図星を突かれたフラッドは、怒ったフリをしてなんとか誤魔化そうとした。


「事実じゃないですか……」


「もっ、申し訳ありませんっ……! ですが、若様、誰にも行き先を言わず、金品をもって突然遠乗りになど行かれて……どのような理由で?」


 マズい。と、思ったフラッドは瞬時に持ち前の小賢しさを発揮する。


「そ、それは、お前が今朝言っていたことへの対処のためだ」


「私が今朝言っていたことへの対処?」


「ああ。くだんの凶悪魔獣、解決してきたぞ」


「えっ? はっ? ま、まことですかっ? お一人で討伐なされたので……??」


 ゲラルトが怪訝けげんな表情を浮かべる。


 普通に考えれば、兵千人相当の実力を持つ魔獣を、フラッドとエトナ二人で討伐などできるわけがないのだ。


「ああ。討伐というより、使い魔にした。こいつだ。ディーという」


【私こそが、この領地一帯の魔獣の長、ディーだ】



 自己紹介するディーであったが、今は変身魔法で可愛らしいマスコット状態になっているので、説得力皆無であった。



「フラッド様……確かに、大きさ以外の見た目は一致しますが……その……」


 なんと言ってたしなめようか? と、ゲラルトが頭を悩ませていると、エトナがフラッドに助言する。


「フラッド様、ディーの本体を見せなければ誰も納得しませんよ」


「確かにな。ディーできるか?」


【回復中だが、少しなら問題ない】


 言うが早いか、ディーはフラッドの方から飛び降りつつ魔法を解除する。


 バフッ――!



 白い煙がディーを包んだ次の瞬間、五メートルの巨体が姿を現した。



「うおっ!?」「うわっ!!」「ぎゃぁっ!!」


 驚く兵士やゲラルト、騎乗していた者は、驚いた馬に振り落とされ、馬だけ逃げて行く。


【これで納得したか人間?】


「ああ……確かに……手配書にあるとおりだ……。ほっ、本当に若様が……?」


「そうだ(記憶にないけど)」


【まさか私が人間に敗れるとは思わなかったぞ】


 ディーがゲラルトの横に立っていた兵士の槍の穂先ほさきなぞるように爪で撫でると、槍の刀身が真っ二つに切断され皆言葉を失った。


「これが使い魔の証だ」


 フラッドが右手の甲を突き出して魔力を込めると、契約の刻印が浮かび上がり、同時にディーの額にも従属の刻印が浮かび上がった。



「「「「おおおお……!!」」」」



 兵士たちが驚きの声を上げる。


「おっ……おおっ……! このゲラルト間違っておりました!」


 突然ゲラルトがひざまずいた。


「ど、どうしたゲラルト?」


 今までに見たことのないゲラルトの態度に驚くフラッド。


「若様……いえっ、フラッド様は、今まで無能のフリをなされていたのですね……! その理由までは分かりませぬが……!」


「えっ? 今無能っていっ……」


 イラッとしたフラッドにエトナが囁く。


⦅フラッド様、兵長に話を合わせてください⦆


⦅わ、分かった⦆


「エトナ殿もご一緒だったとはいえ、単身で領民を悩ませていた魔獣討伐へ向かい、しかも使い魔にして帰ってくるなど、まさしく英雄の器でございます!!」


「い、いや……今まで苦労をかけたなゲラルト――」


 優しくゲラルトの肩に手を置くフラッド。


「いえっ……!」


 ゲラルトは涙を浮かべ頭を垂れた。


「戻っていいぞディー。ゲラルト、納得したのなら、クランツと共に執務室に集まれ。緊急の要件がある」


「はっ!!」

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