第二十八話「ジャガイモ改革」
「? どういうことです?」
「フラッド様はこのために……一年近く前から、毎日ジャガイモを食されてきたのです……!」
「! そういうことか!」
ゲラルトも驚愕したように目を見開かせる。
フラッドはよく分かっていないが、したり顔で頷く。
「……分かってくれたようだな(え……? どういうこと?)」
「今やフォーカス領民の中で、フラッド様がジャガイモを好んで食すことを知らない者はいないと言えるでしょう。全てはこのときのためだったのですね……!」
「上から命令するのではなく、一年もかけて、自ら率先して民に示されておられたとは!」
「ああ、そうだ(えっ? 好きだから食べてただけだけど……)」
「そのために、料理長に色々なジャガイモ料理を開発させていたのですね?! 庶民にも貴族にも合う、調理法を模索するために!」
盛り上がる二人に、当のフラッドだけ心の中で「?」を浮かべていたが、カインの言葉でやっと理解した。
「そのとおりだ(違うけど便乗しとけ)! ジャガイモ食推奨令を出すときには、この数百にも及ぶジャガイモ料理のレシピを、貴族平民関わらず無料で公開する!!」
「「卓見でございます!!」」
頭を下げる二人。そこからはフラッドの、ジャガイモ栽培及びジャガイモ食推奨令を公布する方向で話が進められた。
「では当面のあいだ、ジャガイモを栽培する者は、その規模に応じて税を部分的に免除、さらにジャガイモ自体は非課税。ということにしましょう」
「ジャガイモ食に関しては、下手に命令するよりも、徐々に浸透するのを待つしかないでしょう。ですが、この屋敷に勤める者からも、徐々に領民へのジャガイモ食が広がっているようですし、今回の推奨令とレシピの公開は、ジャガイモ食が大衆に広がるいいきっかけになるかと」
フラッドは二人の意見に頷く。
「二人の言うとおりにしよう。次にもう一つ行いたいことがある。ジャガイモ倍買令だ」
「それはどのようなもので?」
「うむ、これは半年後を目安に、領内産のジャガイモなら相場の五倍、領外のジャガイモなら、相場の三倍の値段でフォーカス領が買い取る。というものだ。それと、その中でも特に品質のいいジャガイモを作ったものには、別途報奨金を出そうと思う」
「そっ、それは流石にっ」
カインが待ったをかける。
「さすがにそれでは、いくら相対的に相場が下がったとしても、発令後王国中のジャガイモが一気に売られて、フォーカス領は破産してしまいますっ」
「カイン、その
記憶どおりなら、半年後には大飢饉が発生するため、そのときは誰もジャガイモを売らなくなる。という確信がフラッドにはあったし、そうならずとも、平民となるのは望んだり叶ったりだった。
「フラッド様……」
「そっ、そこまでのお覚悟が……」
「後はこの旨を陛下にも
「上奏文はボクが認めます」
「頼むぞカイン」
二人はフラッドの壮絶な覚悟を受け、自分たちもフラッドと進退を共にする覚悟で『ジャガイモ栽培及びジャガイモ食推奨令』『ジャガイモ倍買令』の細部を詰め、発令・公布した――
フォーカス領民たち――
「あの領主がバカなこと言い出したな。俺たちに豚の餌を食えだって? 舐めてんのか?」
「でも領主様は、一年前くらいから毎日、ジャガイモ食べてるって話じゃねぇか」
「たしかにな……ジャガイモって美味いのか……?」
「冗談だろ? 美味くてもあんなのは、豚かスラム民しか食わねえよ」
「ちょっと待ってくれ。俺たちはバカだバカだと言ってきたが、領主様は本当にバカなのか?」
「どういうことだよ」
「よく考えてみてくれ。確かに領主になるまでは、バカでワガママなクソガキだったのは確かだ。けど、ホントに今もバカのままなら、命の危険と引き換えに単独で魔獣も倒さないし、クランツの罪も
その場にいた一同は男の言葉に一理ある。と、思っていた。
「そりゃそうだが……」
「今こうやって俺たちが景気よく暮らし行けるのは、カイン様のおかげか? それともフラッド様のおかげか?」
「「「「確かに……」」」」
「そんなフラッド様が言うなら、ジャガイモだって一度は食べてみりゃいい。不味かったらやめればいいだけの話だ。それに、ジャガイモ栽培も免税と非課税ってことは、育てれば育てた分だけ金になるってことだ。これは俺たちにとっちゃ得にしかならない話だろ?」
「「「「だな……」」」」
一同納得する。
(ほう……主も随分と評価されるようになったものだな……)
猫に変身して平民たちのやり取りを見聞きしていたディーが満足げに呟く。
このようなフラッド有能派と、フラッド無能派の似たようなやり取りがフォーカス領各地で行われ、そうしてフォーカス領内では、フラッドが公開した百以上のレシピもあいまって、爆発的にジャガイモ食とジャガイモ栽培が普及していった。
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