第五十五話「決着」

「…………」


 青から赤に色が変わった瞳に意思はなく、ただ怪しく輝いている。


「ほう……それがお前の魔法か……どんなものかは分からんが、どうせ貴様の魔法だ。大したものではないのだろう!!」


 ギィン――ッ!


 フラッドは一歩も動かぬまま、ヴォルマルクの一撃を片手持ちした剣で受け止めた。



「! まさかお前も強化系なのか?!」


 ギャリッ――!


 無言のままフラッドがヴォルマルクへ剣を振るい、ヴォルマルクが受け止める。


「はははは!! 重いな、これはこれで楽しめそうだ!!」


 ギギィ――ン!!


 二人は数合、数十合の剣劇を数秒にも満たない間に繰り出し続け、火花や削れた剣の鉄粉が宙を舞う――


「はっ!!」

「…………」


 ヴォルマルクの斬撃を躱し、受け流し、受け止めるフラッド。


「どうした?! 守るだけかっ!?」


 大ぶりな一撃を見舞おうとするヴォルマルク。


「…………」


 深紅の双眸そうぼうがその隙・慢心を捉え、ヴォルマルクの首筋に一撃が見舞われる――


 ギッ――!!


「ぬっ!?」



 嫌な感覚に一旦距離を取るヴォルマルク。首筋へ手を当てると、薄くだが血が付着していた。



「なんとっ!? 強化された殿下に傷をつけた?!」


「薄皮一枚とはいえ尋常ではないぞ……!」


「どうなっている?!」


 帝国軍がざわつく。



「「「「フラッド様!! フラッド様!! フラッド様!!」」」」



 フォーカス軍はフラッドの名を口々に叫ぶ――


「あれがフラッド様の魔法……」


【うむ。私を倒した最強クラスの魔法だ】


「そのようだな。ヴォルマルクも並ではないが、あれは尋常ではない……」


 驚くカインに、自慢げなディー、納得するゲラルト。



 首への一撃を境にヴォルマルクは防戦に徹していた。



「なんだ……なんなのだお前はっ!?」



 最初から全力であるヴォルマルクに対し、フラッドの生存本能は敵が強ければ強いほど、発動する時間が長ければ長いほど、その効力が天井知らずに高まっていく。



 誰よりも疾く、誰よりも正確に、誰よりも強く、誰よりも重く―― 


「ぐうううううっ!!」


 防ぎきれない斬撃の嵐に、ヴォルマルクの全身に切創が刻まれていく。


「らぁっ!!」


 反撃の一撃を事も無げに躱すフラッド、その鬼神の如き強さに両軍の将兵は言葉を失っていた。



「何故だ?! 剣の腕なら俺は姉上をも上回っているというのに……っ!!」



「…………」



「うおおおおおおおおおおお!!!! 認めん!!!! これで死えぇっ!!!!」



 ヴォルマルク渾身の一撃に対し――



「…………」


 ヴン――


 フラッドは手に持った剣で、力まず、たゆまず、ただ撫でるように、軽く振って応じた――



「え……?」



 そのなんでもないような一撃は、ヴォルマルクの剣を両断し、鎧を切り裂いていた――


 カラン――


 切断された剣の切っ先が地面へ落ちる。



「がはっ……! 斬……鉄……? この剣は……オリハルコン製……だぞ……? 化け物……め――」



 口から血を吐き、胴から血を噴き出しヴォルマルクは倒れた。


「…………」


 命に対する危険が消えたことで生存本能が解除され、フラッドの意識が戻り瞳の色が元に戻る。



「はっ……! ……えっ?!」



 足元に倒れているヴォルマルクを見てフラッドが驚愕する。


(なんでこいつやられてんだ……? いやっ、それよりもっ!!)


 フラッドはすぐさまエトナの拘束を解く。エトナは意識を取り戻していた。



「すまないエトナっ……!」


 エトナを抱きしめるフラッド。


「情けないですね私は……。まさか捕われてしまうなんて……。フラッド様の足を引っ張っていまいました……」



「そんなことは気にするなっ……! いつも俺がお前の足を引っ張ってるんだから、エトナは永遠に俺の足を引っ張っるべきだっ!!」



「ふふっ……なに言ってんですか……? それよりもフラッド様、勝鬨かちどきを上げてください」


「あ、ああ。分かった!」


 フラッドは剣を手に取ると空高く掲げた――



「フラッド・ユーノ・フォーカス!! 敵将ヴォルマルク、打ち倒したり!!!!」



「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」



 地をも揺るがす大歓声が戦場に響き渡った――

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