第三話「巻き込まれる男」

「お化粧直しに行ってきますわ」


「私もお供します」


「ディー、二人の護衛を頼む」


【ワンッ!】


 二人と一匹はその場を後にし、広場にはフラッドだけが残った。



「ふぅ……」


 ラッシーを飲みつつ一息吐くフラッド。


 実はこのとき、陰で一同を護衛していた近衛と領兵が、情報の伝達ミスで全員フロレンシアたちのほうについて行ってしまう。という致命的なミスが発生していた。つまり、今のフラッドは誰にも護衛されていない完全ぼっち状態だった。


「まぁ……殿下も楽しそうだからいいか……。うん?」


 何気なくフラッドが目をやると、裏通りに繋がる路地に怪しい動きをする男たちが見えた。


「なんだ?」


 よせばいいのに好奇心で、なにも考えずフラフラとそこへ向かうフラッド。



「おい! これで全員か!?」


「待て、あと一人来るはずだ!」



(なんか見るからに怪しいな……絶対なにか企んでるだろ……)


 こっそり男たちを覗くフラッド。



「?! おい!! 誰だ!!」


 フラッドに気付いた男の一人が声を上げる。


(やべっ!!)


 すぐに逃げようと思ったフラッドであったが、よく考えれば自分には護衛がついているのだから大丈夫だ。と、変な自信をもって男たちの前に堂々と姿を現した。



「誰だてめぇ!! 見られたからには……」


 男はナイフを取り出してフラッドに向けて構える。



(うわっ! やっぱ危ないヤツらだった! 護衛兵! 早く来て!!)



 はやる男を仲間の一人が制す。


「待て、こいつが残りの一人じゃないか? 黒髪にハンチング帽……見た目は一緒だ」


 ナイフの男が怪訝けげんな表情でフラッドを見る。


「違うと思うけどよ……おいお前、山」


「? 川?」


「ちっ、まぎらわしいんだよ! これで全員揃ったな! こっちだ早く来い!!」


「はっ? えっ?」


「ほら! 早く!」


 腕を捕まれるフラッド。


「えっ? あっ、はいっ(護衛兵?! 護衛兵!?)!」


 フラッドは心の中で叫びながら、下手に抵抗したら危ない! と本能的に理解し、男たちに逆らわず、裏通りの廃倉庫へと連れられていった。


 


 廃倉庫内――



「フラッド・ユーノ・フォーカスを殺すぞおおおおお!!!!」



「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」



(どうしてこうなったーーーーーー?!)



 廃倉庫には過激なテロリストたちが集っていた。

 構成員は主にフラッドによって職を失った違法魔石業者や汚職役人たちだった。



「殺す!!」


「ぶち殺す!!!!」


「絶対殺す!!!!!!」



(こいつら俺への殺意が高すぎるだろっ……!! なんか前世の処刑されるとき思い出すわ……!! トラウマなんだぞ!!)


 心中で毒づくフラッドであったが、ここで自分がフラッドだとバレたら大変なことになる。と、内心ビビり散らしていた。



「おいそこのヤツ! 新顔だが大丈夫か!?」


「ひょぇっ!?」


 指導者らしき男に指さされたフラッドにテロリストたちの視線が一身に集まり、卒倒そっとうしそうになるフラッド。



 そこへフラッドを連れてきた男が割って入る。



「大丈夫だ! 俺が確かめた! コイツはちゃんと合言葉の山川も知ってたぜ!!」


(あれ合言葉だったのかよ!! 誰でも分かるわ!! ガバガバ過ぎんだろ?!)


「そうか、だが一応その身で証明してもらおう」


 そう言って指導者らしき男はフラッドの肖像画を手に取って、フラッドの前に放り投げた。



「それを踏み、フラッド・ユーノ・フォーカスを心の限り罵倒しろ!!」



「はい喜んで!!」



 ゲシッ!!


 この窮地で急速に頭が回り始めていたフラッドは、即答してなんの躊躇ちゅうちょもなく自分の肖像画を踏みつけた。

 肖像画を踏んだ程度で人は死なない。その判断は早かった。

 元来エトナと自分の命のためならどのような憎い相手であれ、喜んで土下座し靴を舐める男である。この程度のこと造作もなかった。



「このクズがぁ!! 俺がぶっ殺してやるよ!! 調子に乗りやがって腐れ外道がコノヤロー!!」



「アイツ……なんの迷いもなく……!」


「間違いねぇ……アイツは完全に同志だ……」


「すげぇ殺意だぜ……!」


 あまりに迫真過ぎてテロリストにすら引かれるフラッド。



「あっ破れた!! 替え持ってこーい!! 何枚だってぶち破ってやらぁ!! ウララァー!!!!」



 破れた肖像画を踏みにじり、それを拾ってズボンのベルトに挟み、蛮族のような奇声と共に両腕を振り上げるフラッド。



「おっ、おい、もういいぞ。よく分かった。疑ってすまなかったな同志よ……!」



「アイツに会ったらこの肖像画みてぇにしてやるよおんどりゃあ!!」



 演技に熱が入りヒートアップするフラッドをテロリストたちが止めにかかる。


「わ、分かったから落ち着け、な?」


「水飲むか?」


「どうどう」


 数人の男たちになだめられ、落ち着くフラッド。



「よし落ち着いたな? ではこれよりフラッド・ユーノ・フォーカス暗殺計画を実行に移す!!」



「「「「おおおおおおおおおお(フラッドも一緒に雄叫びを上げている)!!!!」」」」



(やばいなぁ……俺を暗殺する計画を俺の前で話し始めたよ……)



「フォーカス邸の警備は厳重だ!! そしてフラッドは基本的に屋敷の外に出ない!!」



(結構出てるけど……)



 フラッドのお忍び含めた外出情報が外部の人間にれていないのは、カインの徹底的な情報統制のためであった。



「だから夜襲を行う!! まずフォーカス邸の前で酔っ払いの喧嘩のフリをして騒動を起こし、警備の目を集め、その隙に我等全員で裏門からフォーカス邸に侵入し、数の利をもってフラッドを殺すのだ!!」



(まさか目の前で自分の暗殺方法をプレゼンされることになるなんて……。我ながら数奇すうき過ぎる人生だな……)



「決行は今夜!! 狙いはフラッド!! 他の者に目は向けるな!!!!」



「「「「おおおおおおおおおおおおお(フラッドも一緒に腕を振り上げ叫んでいる)!!!!」」」」



「やってやるぜぇ!! ひゃっはー(どうやってここから抜け出そう……? そもそも俺の護衛兵なにやってるんだ……?)!!」



 完全にテロリストたちに馴染みながらも、内心ではどうしようどうしようと動悸どうきが止まらないフラッド。






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書籍版、明日発売です!


各店舗様ごとの書き下ろしSS特典等ございますので、よりお楽しみいただけましたら幸いです!

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