📰 詠み書きステト 🩺
医師脳
第1話 はじめに――表紙の説明
詠み書きステト
―詠み―
平成三十一年一月二十六日、突然何を思ったのか短歌を始めた。
それまで短歌など詠んだことはない…のにである。
その日は土曜日だった。
散歩がてらに寄った本屋で、偶然に一冊の本を見つけた。
いや、探し物をしていたわけではないから、出会ったと言うのが適切だろう。
すでに目当ての本を二冊購入していたものの、新聞社から贈られてた投稿謝礼の図書カードが少し残ったので、ふだんは行かないような書棚を徘徊していたのだ。
目に留まったのが、永田和宏『人生の節目で読んでほしい短歌』という背表紙の文字。その下の帯には「生き方のヒント」とある。
手に取って裏帯を見ると……。
「さまざまの困難の前でどうしても対処の仕方が見つからないときがあるでしょう。出口が見つからず茫然とするときもあるでしょう。そんな時、同じような局面で、自分とは違った感じ方、捉え方をしている歌に接することは、一歩前に踏み出すことを躊躇っているあなたの背中をそっと押してくれるはずです」
家に戻って一気に読み終えた。
二時間後には、自分の〈時の断面〉を残そうと決心していた。
「一日一首を!」の決心が覚めぬ間に、一首目の短歌もどきを詠んだ。
趣味とはれ「短歌」とこたふれど未熟者ゆびをり数ふるななつむつやつ
馬手にペン弓手ゆびをる歌詠みぞボケ予防とてバイタスクせむ
いわゆる「白い巨塔」で生息していた頃の習慣だろうか。自作の短歌をパソコンのエクセルソフトでデータベース化し
『しちじふのてならひ』と名付け、医師脳(いしあたま)を号した。
七十歳の手習ひなるや歌の道つづけてかならず辞世を詠まむ
―書き―
令和四年七月三十一日、またしても何を思いつめたのか、1283首目の短歌に駄文を綴り「一日一編!」と始めた。
『勤務医をやめて健筆宣言』
とりあへず医者人生の中締めと職場をあとにす 岩木山笑む
年を越せば、前期高齢者から後期高齢者へと格上げ(?)される。…と諦念したわけでもないが、やっと無職の身となった。
◇欧米では、リタイアする上司や友人に「コングラチュレーションズ」の声をかけるそうだ。「このたびはご退職おめでとうございます。素晴らしいキャリアを築かれたことへのお祝いを申し上げます」という具合に。
◇出勤しなくてもよくなったが、だらだら暮らすのは嫌なのでスケジュールを立てた。朝5時すぎに起床、6時に朝食をとったら机に向かい、午前中は短歌を詠んだり、原稿を書いたりのアウトプットにあてる。昼食と昼寝の後は、読書などインプットか、妻のガーデニングを手伝う。夕食後は、涼しくなったころ夫婦で30分ばかり散歩する。シャワーで汗を流し、のんびりしていると眠くなる。…とまあこんな生活を始めた。
◇医者人生の中締めだから、チャンスがあれば働き始めるだろう。それまでは充電期間として有意義に過ごしたいもの。短歌は「一日一首」の決め事だし、駄文も書きたまる。それならば掲載の採否は気にせず、取りあえず送り続けよう、と決意表明する次第である。
―ステト―
ステト……とは?
ドイツ語「ステトスコープ」を略して、業界人は聴診器を「ステト」と言う。
最近は(若い頃に使っていた物より)高性能な神器に頼っている。
あばら透け「おしょし」と恥づる婆さんのシャツの上から聴診するなり
「うんうん」と鷹揚にうなずきながら(たとえ不整脈や心雑音など聞こえたとしても)厳かに告知する。
「いい音だ」
お婆さんは「よかったよかった」と両手を合わせる。
お爺さんの場合には「合格!」の一言で、満足そうに納得する。
何しろ霊験あらたかな聴神器(?)ではある。
―医師脳―
いしあたま……とは?
広辞苑を引くと――
いしあたま【石頭】
①石のようにかたい頭。
②考え方がかたくて融通のきかないこと。また、そういう人。――と、ある。
いしあたま【医師脳】は、私の造語だから、辞書を引いても載っているはずがない。まっ、洒落のつもりなのでよろしく。
*
というのが、一応の事情説明である。
(20220731)
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