第17話 迎へ火を上手く着けむと苦労せしに早も今宵は送り火を焚かむ

「迎へ火を上手く着けむと苦労せしに早も今宵は送り火を焚かむ」―。


 短歌を筆書きするとき迷うのが常用外漢字の使い分け。


 迎え火を「点ける」か「付ける」か「着ける」か。


「点火」も「着火」もあるが…。


「送り火をたく」の場合は「焚く」で「炊く」のは御飯や大根だ。


 ならば漢字なしに、旧仮名だけで書けば「むかへびをうまくつけんとくらうせしにはやもこよひはおくりびをたかむ」と今度は意味不明になってしまう。


     ◇


 母の実家の大きな迎え火を思い出す。


 小学校の夏休みだったろう。


 日中は裏の畑で、紫や白などカラフルなキミ、スイカ・マグァ・ナス・キュウリ・トマト・枝豆など、汗いっぱいで収穫した。


 そしてまだ明るいうちから、若い叔父たちと一緒に「近所のよりも高く!」と、切り揃えておいた木片を積み上げる。


 夕刻になると、樹木のバス通りの両側には迎え火が点々と並び、子どもたちの声が響いていたものだった。


     ◇


 当時は青森市に住んでいた小学生の私にとり、自分が母の実家の近所に家を建て、玄関先で送り火を焚く姿など想像できるはずもなかった。


 その我が家は、あの野菜畑だった辺りのはずだ。


 昨夜からの強い雨も止んだことだし、今宵は盛大に送り火を焚くことにしよう。


(20220816)

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