第48話 この先はボケの心配するよりも楽しさ創りて日々すごしたし

「この先はボケの心配するよりも楽しさ創りて日々すごしたし」―。


 老健施設長と言う仕事がら、大勢の認知症の老人に接してきた。

「85歳を過ぎれば約半数は認知症」という統計もあり、当然の光景だと納得できる。


     ◇


 そもそも「老人はボケる」ものだ。


 それなのに「認知症になってまで長生きしたいとは思わない」と断じた口で「死にたくない」とも願う。


 いずれにしても「ボケたらどうしよう」と恐れたり「ボケないぞ!」と頑張ったりしても無駄なストレスを生むだけであろう。


 それなら「ボケたらそのとき」と開き直るのが懸命だと爺医は思う。


     ◇


 超高齢社会では、ありふれた認知症との付き合い方が大切である。


 その視点に立てば、良くも悪くもボケの展示室たる老健施設は、己の向後への参考となる。


 「熱が出た」と聞き、ナースと部屋へ向かう。

 いつものように食堂で居眠りをしており、声をかけると「七度九分? だいじょぶだあ」と飯を食う。


 それから数か月後、大正うまれの婆さんは、ボケとともに幸せな人生を終えた。


     ◇


 ボケても周りから愛される、そういうヒトに私はなりたい。

 …と、日々「ありがとう」を忘れずに過ごしたいと思う。


 老いて幸せなら、人生それでよし。


(20220916)

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