第49話 取り上げも看取りも遣りし爺医なれば「命の関守石」とも言ふべし
「取り上げも看取りも遣りし爺医なれば「命の関守石」とも言ふべし」―。
関守石は「茶庭の岐路に蕨縄で十文字に結わえて据えた石。それから先へ行くな、という意」と、広辞苑にある。
「止め石、留め石、関石、極石、踏止石」とも呼ばれるそうだ。
◇
医者になって間もなく半世紀。
初めの3分の2は産科医として、そのあとは老人医療に携わった。
〈命の関守石〉として〈誕生〉と〈死〉に立ち合い続けたから「揺り籠から墓場まで」を実践する人生行路だったと思う。
◇
産科医だった頃は〈出生証明書〉を随分と書いたが、どれくらいの数だったかは覚えていない。
「おめでとう」と「ありがとう」の遣り取りは、分娩室での緊張を癒すものとして記憶にある。
産科医をしてよかった、と晴れがましくも思ったものだ。
◇
一方の〈死亡診断書〉は、老健で看取りを頼まれるようになり書く機会がふえた。
そのほとんどは「老衰死」の診断。
「おかげで天寿を全うさせることができました」という遺族の言葉に、正直なところ肩の荷がおりる。
◇
この世への〈着陸〉と、あの世への〈離陸〉に、繰り返し立ち合ってきた。
飛行機は「離陸と着陸が難しい」と聞く。
(20220917)
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