第50話 この媼は壊れしタイムマシンにて母でも娘でも変幻自在

「この媼は壊れしタイムマシンにて母でも娘(こ)でも変幻自在」―。


 ある時は、子供に食事を作る母親に…。


 またある時は、母に甘える少女に…。


 しかし壊れたタイムマシンでは、行きたい〈時〉を選べず、機械まかせに〈時をさまよう〉だけである。


     ◇


 食堂から戻るや否や「まま、まだだがぁ」と催促する婆さんに「いま食べたばかりでしょ!」と一生懸命に説得している。


 介護職や家族は、認知症の婆さんと〈時間感覚〉が違っていることに気づかないからだ。


     ◇


 私たちは普段「過去、現在、未来という流れの中にいる」というアナログ的な時間感覚を共有しているから互いに話が通じる。


 ところが認知症老人では時間の流れが止まり、過去と現在は区別がなくなって勝手にワープしてしまう。


 その瞬間瞬間を生きているらしい。


 どうやらアタマの中に(勝手な時を示す)デジタル時計があり、それに基づいて行動しているのではないか、と愚考する。


     ◇


 夜中に目覚めて暗闇で時計を見る。


 壁のアナログ時計なら、針の位置で何となくわかる。


 しかし、デジタル時計だと数字が読めなければ全く役に立たない。


 デジタルばやりの世も、アタマのなかはアナログがよろしいようで…。


(20220918)

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