医師免許証の賞味期限

「金婚式の今日は『さくらさくら』を連弾し自撮り録画で子らへ聴かせぬ」―医師脳。 

 半世紀前のゴールデンウィーク明けに起きた慶事を思い出す。

 新婚旅行から戻った日、第五十五回医師国家試験に合格した旨の通知はがきが届いた。


 医学生だったころ酒の席で「医者は自分の専門領域の病気で死ぬ!」という都市伝説を先輩から聞かされ、産婦人科の入局を勧誘された。

 あれから産婦人科医30年、老人内科医20年。

 それこそ〈命の関守石〉として〈誕生〉と〈死〉に立ち合い続け、まさに「ゆりかごから墓場まで」の半世紀を過ごした。

 その間、国際医療協力でイラクやマダガスカルに出かけたり、東日本大震災の医療支援に三陸沿岸で暮らしたり、と十分お世話になったはずの医師免許証なのだが…。


 半年余りの閑居の末、スマホで見つけた非常勤の健診医募集に応募したところ、婦人科検診も担当することになった。

 7年前に被災地の南三陸病院で産婦人科を再開させて以来だから、それこそ「昔取った杵柄」である。

 感謝を込めて一首。

「半世紀前の医師免許証ありがたし。『賞味期限』なる語とは無縁と自負す」―。

 だがくれぐれも「老害」と言われぬように…。

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