第37話 一台の重機にあつさり廃屋は潰れしがあまたの思ひ出かへる
「一台の重機にあつさり廃屋は潰れしがあまたの思ひ出かへる」―。
半世紀以上も前、リンゴ畑だった場所に7軒の貸家が建てられ、大学病院の医師たちの住宅エリアとなった。
その一軒で、私たちも新婚生活を始め子育てをした。
◇
愛妻弁当のエピソード。
大学病院の医局へ、昼前に弁当を届けてくれた妻。
「おしゃべりしている奥さんたちの前を通るのは、なんとなく恥ずかしかったのよ~」とは、大分後で聞いた話だ。
上司から「愛妻弁当が届いてるよ!」と冷やかされても気にならず、そんな妻が自慢だった。
今更ながら感謝している。
◇
長男誕生のエピソード。
妻の陣痛が強くなり、青森から駆けつけていた私の母はタクシーを呼んだ。
運転手に荷物を渡したものの、大雪のために玄関の戸を閉められず手間取った。
やっとの思いで母は妻の手を取りタクシーに向かう。
…が既に車の姿はなく、雪の上に荷物だけが置かれていた。
「お母さん、ものすごく怒ってたのよ~」とは、無事に大役を果たした妻からの後日談だ。
◇
重機の音とともに、当時の思い出がよみがえる。
貸家は老朽化し、住人の多くは高齢で亡くなった。
来春には再び、再開発後の真新しい建物から子どもたちの声が聞こえてくるのだろう。
(20220905)
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