第13話 雨雲が朝鮮半島から串団子の形に伸びて青森を襲ふ

「雨雲が朝鮮半島から串団子の形に伸びて青森を襲ふ」―。


 気象衛星の写真には、日本海上空に並ぶ団子状の雲が恐ろし気に写っている。


     ◇


 こんな情報がなかった昔。


 源実朝の金槐和歌集には「建暦元年七月洪水漫天土民愁歎せむ事を思ひて、一人奉向本尊聊致祈念云」の詞書に続いて「時により過ぐれば民のなげきなり八大龍王雨やめたまへ」という一首が収められている。


 大雨などの自然現象も「自然」が起こすのではなく、何か意思を持つ超自然的存在のなせる業だと思っていたのだろう。


 その思いや宜なるべし。


    ◇


 紀貫之の手になる『古今和歌集』の仮名序には「力をいれずして、天地をうごかし、目に見えぬ鬼神をもあはれとおもはせ、男女のなかをもやはらげ、たけきもののふの心をもなぐさむるは歌なり」とある。


 恐るべし和歌の力。


     ◇


 しかし「歌で天地を動かせる?」と、紀貫之を笑う資格が今の日本人にあるだろうか。


 10年余り前、福島第一原発事故の後で「想定外だった」と言い逃れたこと。

 それ以前、津波を想定する意見には「縁起でもない」と言霊を持ち出して葬り去っていたこと。

 …等々、忘れてはいないはず。


 予測不能な天災は無理でも、人災を繰り返してはならない。


(20220812)

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