第34話 西行法師願ひどほりに春に死す密かに断食を重ねし果か

「西行法師願ひどほりに春に死す密かに断食を重ねし果(はて)か」―。


 最晩年の西行法師は、お釈迦様の命日とされる旧暦2月15日に死にたいと願った。

 ―「願はくば花の下(もと)にて春(に)死なむそのきさらぎの望月(もちづき)のころ」西行―。


 思いは叶ったというが、偶然なのだろうか?


     ◇


 宗教学者の山折哲雄氏は著書『ひとりの覚悟』で「西行の最期は断食往生死だったのではないか」と述べている。


 更に「自然に死んでいったように自分の最期を演出した『死に方の達人』というほかありません。西行の死は、私の理想です。そう逝きたいものです」―と。


     ◇


 高齢者医療の世界で15年あまり、多くの死に立ち会い「老衰」の診断書を書いた。


 心の支えになったのは、有名な『ハリソン内科学』の一節。


 ―「命を終えようとしているから食べないのであり、食べないから死ぬのではない。これを理解できれば、家族や介護する人は不安(悩み)を和らげられる」―。


     ◇


 家族も〈終の食〉で、看取る覚悟が生まれる。


 酒を止められてきたお爺さんの思い出話。

「長くないから酒を飲ませてあげたら」と家族へ提案する。

 結局、焼酎シャーベットで晩酌を楽しみ、一週間後に家族が見守るなか大往生した。


(20220902)

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