第39話 ギャルとお世話
◆
「センパイ、朝ご飯っす!」
「あ、うん。ありがとう」
「センパイ、洗濯モノ干したっす!」
「あ、ありが──」
「センパイ、掃除したっす!」
「あ、あり──」
「センパイ、ゴミ出したっす!」
「あ──」
「センパイ! センパイ!! センパイ!!!!」
「…………」
圧が……圧が強い。
起きてからというもの、何故か清坂さんにものすごくお世話されている。
俺が何かやろうとすると、先回りして色々やってくれるんだけど……なんで?
昨日の酔っ払ったことに罪悪感があって、それのお詫び……?
でも今朝本人に聞いたら、覚えてないって言ってたし……ふむ?
しかも、朝から勉強までしてるし……一体どうしちゃったんだろう。謎は深まるばかり。
食後のコーヒーをすすり、一生懸命勉強をしている清坂さんを見る。
昨日のことは酔っ払っていて覚えてないみたいだけど……。
『いーこにするから──置いてかないで……』
置いてかないで……どういう意味なんだろうか。
勿論、ただの寝言の可能性もある。
それにもしこの言葉が、清坂さんの根幹にあるものだったら……ただのソフレに過ぎない俺が聞くのは、おこがましい気がする。
でも、清坂さんが本当に寂しがっているのだとしたら……俺に出来ることは、何があるんだろう。
「……ん? なんすかセンパイ。私の顔に何かついてます?」
「あ、いや。なんでもないよ」
「そっすか? それよりセンパイっ、他に何かして欲しいことないっすか?」
「大丈夫だよ、ありがとう」
「そっすか……」
なんで残念そうなのさ。そんなにお世話するの好きだっけ。
清坂さんの突然のお世話欲求に首を傾げる。
「あ、そういえば今日から夏服の移行期間だっけ。暑いし、夏服にしようかな」
「あー、そっすね。私も夏服にしよっと」
クローゼットから夏ズボンを取り出し、俺はリビングで、清坂さんは寝室で着替える。
念の為に長袖のワイシャツを着て、袖をまくった。これなら教室が冷房で寒くても問題ないからな。
しばらくすると、夏服に着替えた清坂さんが寝室から出てきた。
長袖のワイシャツに、膝上がめちゃめちゃ短いスカート。でも寒さ対策なのか、空色のカーディガンを腰に巻いて、手首には髪をまとめるシュシュを付けている。
「どっすか? 似合ってます?」
「うーん、ギャル」
「それ褒め言葉っすか?」
「すごく褒めてる」
こんなに制服をギャルっぽく着こなせて、しかも超可愛いとか反則でしょ。褒め言葉以外のなにものでもない。
……なんか、ちょっとドキドキして来た。
いつもはブレザーっていう厚手の制服だし、家にいる時は俺のシャツを着てるからあまり意識してなかったけど……視覚的に見ても、超デカいお胸様だ。
え、いつもこんなでっかいの押し付けられてたの、俺。……本当、よく我慢してきたな。自分で自分を褒めたい。
「センパイ、目がえっちです」
「ご、ごめんっ」
「全く……センパイも男の子ですね。……ま、まぁ、センパイが望むなら、ちょっとさわってもごにょごにょ」
……? 何をごにょごにょ言ってるんだろう?
首を傾げる。と、急に尿意が押し寄せてきた。
「って、センパイどこ行くんです?」
「ちょっとトイレに」
「あっ、わかりました! なら私が代わりに行っておきます!」
「ありが……え、待って!」
トイレを代わりに行くってどゆこと!?
あ、ちょ、本当に入らないで!?
「大丈夫ですっ、私に任せてください!」
「何を!? この状況で何を任せろと!?」
まあ我慢出来る範囲だから、まだ大丈夫だけど……。
「センパイ、大変です!」
「ど、どうしたの?」
「朝出しちゃったので、おしっこ出ません! これじゃあセンパイの代わりが出来ないです!」
「しなくていいからさっさと出て来てくれないかな!?」
つ、疲れた……朝から何故か疲れた……。
あれから登校時間になるまで、清坂さんは何から何までお世話しようとしてきた。
朝から美少女にお世話されるのは嬉しいけど、気が休まらないんだよな……一体、どんな心境の変化があったのやら。
「あ、パイセーン」
「ん? ああ、天内さん」
教室に向かう途中、廊下で天内さんに出くわした。
もう夏服に移行したのか、先日まで着ていたブレザーは脱がれて半袖ワイシャツ一枚に。
でも寒さ対策なのか、腰にはベージュのカーディガンが巻かれている。
なんだか、清坂さんと双子コーデみたいで可愛い。
……にしてもデカいな。清坂さんといい、天内さんといい、なんでこう発育がいいんだ。
「おはおはー。……なんか疲れてない?」
「あー、ちょっと朝から色々あって」
「ノロケかよ」
「今のどこにノロケ要素があった?」
「むしろノロケしかなかったけど」
「喧しい」
廊下の真ん中で天内さんと話してるからか、じろじろと見られる。
これ、ちょっと居心地悪いな……俺が誰と話そうと俺の勝手だけど、こんなに見られるとは。
「じゃ、俺行くね」
「あ、待って待って」
教室に行こうとする俺を止めた天内さん。
スマホを高速で操作すると、俺のスマホが震動した。
深冬:五分後、四階の空き教室集合!
……え?
「天内さん、これってどういう……って、いないし」
えぇ……どういうこと、これ?
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