第48話 友人と直感

   ◆



 ピンポーン。


 チィ、もう来やがった!

 取り合えず持っている清坂さんの私物を寝室にぶち込み、服を洗濯機に入れる。

 ざっと見渡した感じ、リビングに清坂さんの荷物はない。よし。


 玄関を開けると、甘いイケメンスマイルを浮かべた悠大がいた。

 夏の暑さすらかすむ爽やかさ。本当、清坂さんが見たら即落ちするんじゃないだろうか。……それは悲しすぎるから、是非とも合わないで頂きたい。



「おす。お待たせ」

「いや、大丈夫だよ。……なんか汗かいてない? 大丈夫?」

「そ、そうか? まあ今日は暑いからな」

「だねー。もう本格的な夏だ。あ、ジュースとアイス買って来たよ」

「悪いな。まあ上がれよ」



 荷物を受け取り、悠大を部屋に入れる。

 クーラーは付けていない。一人暮らしにエアコンとい文明の利器は高額すぎるので。



「相変わらず殺風景な部屋だねぇ。男の一人暮らしなんだから、もう少しアダルティなものを置いてもいいと思うけど」

「置かんわ」



 というか、清坂さんが居候してるのにそんなもん置けるはずないでしょ。そういうものは全部、清坂さんが居候することになった日に捨てたわ。

 ……持ってたんかい、というツッコミは野暮ということで。


 海斗がソファーに座ると、急に「ん?」と首を傾げた。



「海斗、なんかアロマとか置いてる?」

「え? いや、置いてないけど」

「そうかな? なんかすごくいい匂いがするような」



 ……あっ!? まさか、清坂さんの匂いが染みついて……!?

 しまった、匂いに慣れ過ぎて、そこまで気が回らなかった!



「さ、さっき消臭剤撒いたんだ。昨日一人焼肉したから……」

「いいなぁ。次僕も誘ってよ」

「あ、ああ。次な」



 あっぶねぇ。危うく危ない。

 ……慌てすぎて語彙力が清坂さんみたいになっちゃった。


 ソファーに座り、悠大と並んでアイスを食う。

 俺も悠大も大声で盛り上がるようなタイプじゃない。だからこういう時間でも、割と間が持つ。

 これが清坂さんだと、静かすぎると構って構ってと騒ぐ。

 その度に白百合さんに怒られるけど。そんなところも可愛いんだよね。



「あ、ゲーム機持ってきたよ。海斗の家、こういうのないから」

「俺だって買おうと思えば買うぞ。遊び相手がいなくて買う動機がないだけだ」

「何その悲しい理由」



 悠大が苦笑いを浮かべて、ゲームの準備をする。

 最近話題になった、一つのゲーム機で二人同時に遊べるやつだ。こういう機会でもないと遊ばないけど……もしかして、清坂さんとかこういうのやりたかったりするんだろうか。帰ってきたら聞いてみよ。


 悠大と適当にパーティーゲームや格闘ゲームで遊んでいく。

 勿論、経験者の悠大には勝てない。ほぼ全敗だ。

 それでも、久々に悠大と遊んだ気がする。これもこれで楽しい時間だ。



「ところで海斗、気になってたんだけど、いい?」

「なんだ?」

「彼女できた?」



 ピタッ。

 思わぬ質問に手が止まってしまった。

 その隙を突かれてハメ技からの必殺技のフルボッコにされゲーム終了。完全敗北を喫した。



「えーっと……それは喧嘩売ってる?」

「そうじゃない。ただー、そのー……窓の外に下着がー……ね?」

「え」



 恥ずかしそうに頬を染めている悠大。男の照れ顔ってどこに需要が?

 って、窓の外? ……え、まさか!?

 慌ててベランダを確認すると、がっつり女物の服と下着が干されていた。しかもちょっと際どい系の。

 ちょ、な、え!? なんで!? ふ、普段は俺が洗濯してんのに、なんで今日は!?


 慌てて清坂さんにメッセージを送ろうとアプリを開くと、清坂さんからメッセージが来ていた。



 純夏:あ、センパイ、洗濯は済ませているので、朝はゆっくりしてくださいね♡



 タイミング!!!!

 いや嬉しい。清坂さんが自発的にこういうことをしてくれたことは、本当に嬉しい。

 でも! 今じゃ!! ないんだよ!!!!



「え、えーっと、これはその……そ、そう! 白百合さんが大量にゲロぶちまけて洗濯したんだけど、場所がないからって場所を貸してるんだ」

「あ、そういうことか。確かにあの人、金曜は毎週すごいもんね。……でも吐くまで飲むのはちょっと幻滅したかな」



 ほ、よかった。納得してくれた。

 ごめん、白百合さん。白百合さんの株価、大暴落しちゃった。てへ。



 カーテンを閉めて洗濯モノを視界に入れないようにし、一息つく。

 あー、無駄になんか疲れた。


 ソファーに座ってジュースを飲むと、悠大が口角を上げてこっちを見た。



「でも彼女はできたでしょ」

「なんでだよ、できてないよ」

「おっかしいな。最近の海斗、毎日女性の匂いがすると思ってたんだけど。一人暮らしだし、彼女でも連れ込んでるのかと思ったんだよね」



 鋭すぎないかこいつ。

 でも彼女ではない。うん、断じて彼女ではないよ、断じてね。



「毎日匂いがするから、相手は大学生……あ、もしかしてOL? ただれた毎日とか、連れ込んでヤリまくりとか?」

「しとらんわ」

「へえ、連れ込んでることは否定しないんだ」

「それを上げ足を取るって言うんだよ」



 こいつ、昔から二人きりになると下世話な話が多いんだよな。

 でもまさか、女を連れ込んでるって話になるとは思わなかった。勘よすぎか、こいつ。



「ふーん……ま、最近の海斗は楽しそうだし、深くは聞かないであげるよ」

「随分深々と抉って来た気がするけど」

「まあまあ。なんならもっと抉ってあげようか?」

「勘弁してくれ」



 これ以上深堀されたら、俺と清坂さんがソフレで毎日添い寝してるってばれてしまう。

 悠大は清坂さんのファンクラブに所属している……ソフレバレだけは、絶対避けなければ。

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