第49話 友人たちとラーメン

   ◆



「海斗ー、お腹空いたー」



 時刻は既に十二時。もう昼飯にはいい時間だ。

 確かに俺も小腹が空いた。なんだかんだ、朝飯食ってないし。



「そうだな……どうせなら、外に食いに行くか?」

「お、いいね。この辺だと家系ラーメン?」

「そこでよければ」

「オッケー」



 精神的に疲れてる時は、家系のこってりラーメンに限る。

 財布だけ持って家を出ると、徒歩五分圏内にあるラーメン屋に向かった。

 清坂さんが来てからは行かなかったし、本当に久々な気がする。



「そういえばさ、海斗は清坂さんに対する気持ちの整理はついたの?」

「なんだ、いきなり」

「この間随分と悩んでたじゃん。もしかして天内さんの方? それとも両方?」



 微妙に当たって、微妙に外れてる推理だ。

 うん、ある意味で二人じゃないし、ある意味で二人でもある。

 でも気持ちの整理と言われると、どうなんだろうか。



「……正直、わからん」

「本当に正直者だね。いつもの海斗なら、なんだかんだ言ってはぐらかすのに」

「お前に隠し事するのも疲れるからな」



 ソフレとハフレの件は、マジで言えないけど。



「自分の気持ちが恋なのかどうかなんて、いまいちピンと来ないんだよな」

「海斗の育ってきた環境だと、それも仕方ないよ。むしろよくグレなかったね」

「ああ。自分で自分を褒めてやりたい」



 過去のことを思いだすと、ぶっちゃけため息しか出ない。悠大もそのことは知ってるいる。

 でも過去は過去だ。今は、清坂さんたちとの今を大切にするさ。


 しばらく取り留めのない話をしていると、行きつけのラーメン屋が見えて来た。

 と、そこに見覚えのあるプラチナホワイトの髪の持ち主が。



「へいたいしょー! ラーメン固め濃いめ多めで!」

「あいよー」



 それにこの独特のイントネーションと、ラーメン屋の大将より元気な声は。



「ソーニャ?」

「あれ、ソフィア」

「んー? おー、ヨッシーにゆーだい! よーっす!」



 月藏ソフィア。愛称はソーニャ。俺たちのクラスメイトで、中学からの腐れ縁だ。

 まさかこんな所にソーニャがいるとは思わなかったな。

 ちょうどソーニャの隣が空いていたからそこに座り、俺と海斗はチャーシュー麺を頼んだ。



「二人共、ここ何度も来てるん?」

「うん、海斗の家がこの近くでね。遊びに行くと、大抵ここに来るんだよ」



 あ、バカ。



「へー! 私もヨッシーの家行きたい!」



 ほらぁ、絶対こいつなら来たいって言うと思った。

 ソーニャ一人だったら断ってたけど、まあ悠大もいるし……別にいいか。

 清坂さんも明日まで帰ってこないって言ってたからな。鉢合わせすることはないだろう。



「いいけど、あんまり期待するなよ。本当に何もないから」

「えっちな本は!? ベッドの下は!?」

「無いわ」

「んぇー。つまらーん」



 こいつ、一回シバいたろか。



「あ、でもラノベとか漫画はあるぞ。ゲームは、悠大が持って来てるし」

「まじ? 私、ラノベとかまんが好きだよ! えっちなイラストちょー好き!」

「言っておくが、美少女的な文庫でもエロ漫画でもないからな」

「つまんな」



 こいつ……!

 馬鹿正直なソーニャに拳骨を入れてやろうと拳を握ると、丁度ラーメンが運ばれてきた。

 ラーメンを前に争いは無駄というもの。命拾いしたな、ソーニャ。


 手を合わせ、レンゲでスープをすする。

 うん、うん。美味い。流石。

 しこしこの中太麺も、麺が見えないくらいのチャーシューも、煮卵も、ほうれん草も。全てが相まって最高だ。



「うま! ここのラーメンうまー!」



 ソーニャもお気に召したようだ。

 そうだ。テストが終わったら、清坂さんと天内さんも連れてきてあげよう。……ラーメンとか食べるのかわからないけど。


 三人とも替え玉までし、スープまで完飲。

 腹が膨れたことで、少しイラついてた気分も治まってきた。



「ふぅ……じゃ、家行くか」

「だね。ソフィア、行こう」

「あーい。ごちそーさまでしたっ」



 律儀に挨拶したソーニャと悠大を連れ、ラーメン屋を出る。

 暑いものを食ったし、陽射しが強いから汗が止まらない。

 でも風が吹き、汗が冷えて少しだけ心地いい。



「んぁーっ。食べたー」

「ソフィアって結構大食いだよね。男の僕らと同じくらい食べてたし」

「食べるの好きだからねー。いくら食べても太らないんだ、私」



 太らない代わりに胸にも脂肪はない、と。



「おいヨッシー。今この上なく失礼なこと思わなかった?」

「気のせい気のせい。じゃ、行くぞー」



 自販機でジュースを買い、足早に家へと向かっていった。

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