第47話 虚無と来訪

   ◆純夏side◆



「センパイ、大丈夫かな」



 深冬の部屋で、二人でベッドに寝そべってセンパイのことを想う。

 今回の深冬の作戦は、添い寝に慣れたセンパイをちょっとだけ寂しがらせようというものだ。

 前に私が深冬と電話をしてた時に、センパイはわざわざ私の傍にやって来てまで寝てた(可愛い←ここ重要)。


 確かにこの作戦なら、センパイも寂しがって私が帰ったら甘えてくるかもしれない。深冬、大天才。



「まー、大丈夫でしょ。今頃パイセンも、一人の夜を楽しんでるんじゃない?」

「夜更かししたりとか、お菓子食べたりとか?」

「純粋か。もっとすけべぇなことだよ。だって純夏の服とか下着、残ってるんでしょ?」



 ? ……!?!?



「せ、センパイはそんなことしないし!」

「いやー、パイセンも男だからねー。洗っちゃえば証拠も残らないよ」



 で、でもっ、だからって……!

 …………あー。



「まあ、センパイになら何されてもいいか」

「パイセンのこと好きすぎじゃない?」

「でもセンパイのそういう行為の矛先が自分の服とか、マジでジェラシー」

「自分の服に嫉妬してるんじゃないよ」



 だ、だって……だって……うぅ! センパイ、服より生身に来てくださいよー!

 ……まあ、無断でセンパイの使用済みのシャツを持ってきて匂いを堪能している私に言われたくはないと思うけど。くんかくんか、すーはーすーはー。



「おー、よしよし。ジェラる純夏も可愛いね」

「うー、深冬ー」



 深冬のおっぱいふかふか。超やわこい。こりゃセンパイも夢中になる気持ちがわかりますわ。

 ……私のおっぱいに夢中になってくれてもいいんですよ?



「でも本当、センパイ眠れてるかな」

「電話かけてみたら?」

「んー……いや、いい。ここで我慢すれば、日曜日に帰ったらいっぱい甘えてくれるかもしれないし」

「純夏は? 寂しくないの?」

「ざみ”じい“!!」

「迫真!?」



 うー、寂しいよー! かなしーよー! センパイに甘えたいよー!



「おー、よしよし。おっぱい吸う?」

「吸う」

「ちょ!? マジで服めくんなし!?」

「吸うって聞いたの深冬でしょ!」

「待っ、ちょっ、力強……!?」

「吸わないとやってらんないんだよー!」

「重度喫煙者みたいなこと言うんじゃないよお前はー!」



 おっぱい! おっぱい! おっぱいしか勝たん!!

 さあ、私におっぱいを差し出せ——



「うるっさい!! 何時だと思ってんの!!!!」

「「ごめんなさいです!」」



 唐突に乱入してきた深冬ママに土下座をかます私たち。

 泥酔清楚ギャルさんのせいで、謝るのが板について来た気がする。


 反省して大人しく寝ることに。

 こうして深冬と寝るのって、久々な気がする。ちょっと嬉しい。



「純夏、明日どうする?」

「んー……遊びに行ってもいいけど、勉強はしようかなー」

「真面目だね」

「そりゃあ、センパイが自分の時間を削ってまで勉強を見てくれたから」



 もしこれで成績が上がらなかったら、センパイに顔向けできないし。



「そっか……じゃ、もう寝よう。明日は頑張ろうね」

「うん」



 手を握り、目を閉じる。

 深冬が傍にいる安心で、私はゆっくりと眠りに落ちて行った。



   ◆海斗side◆



 夜が明けて、数時間が経った。

 もう陽射しは強く、気温も徐々に上がっている。

 食欲は微妙にない。眠気もあるのに眠れる気がしない。

 勉強にも集中できないし、かといってラノベや漫画を読む感じでもない。


 リビングのソファーに座り、完全な虚無と化していた。


 珍しく昼間からジュースを飲み、そっとため息をつく。

 たった数週間前までこの生活が普通だったのに、今では何をするか悩む。

 運動するにしても体がだるいし、外に散歩行っても頭が回らな過ぎて事故に遭う可能性が高い。


 だからこうしてぼーっとしてるのがいいんだろうけど……人生の時間を無駄に浪費している感が半端じゃない。



「本当、どうしよう」



 やることがない休日って、本当に久々だ。

 まだ白百合さんと花本さんは寝てるのか、隣から物音は聞こえない。

 家の中の音や、外からの車の音が大きく聞こえる。

 清坂さんに連絡してみようかな……あ、でもおはようメッセとか結構ウザがられるって聞いたことある。やめとこ。


 ソファーに寝転がってあてもなくSNSを徘徊していると、不意に誰かから電話が来た。



「……悠大? もしもし」

『ああ、海斗。おはよう』

「ああ、おはよう。どうした?」

『いや、久々に遊びたいと思ってね。海斗の家行っていい?』

「いいけど、お前勉強は大丈夫か?」

『まあなんとかなるでしょ。じゃ、昼過ぎに行くから』

「うーい」



 海斗が家に遊びに来るのかぁ。なんか久々な気がするなぁ。

 今日は丁度清坂さんもいないし、バレる心配も……あ?


 改めてリビングを見渡す。

 そこらかしこに置かれている、女物の小物や服。しかもリビングには制服まで掛けられている。

 や……やばい! 悠大が来るまでおよそ一時間。それまでにどうにかしないと!?

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