第40話 ギャル友と抱擁

 とりあえず教室に行って荷物を置くことに。

 教室に入ると、既に来ていた悠大が「おはよ」と声を掛けてきた。



「おはよう。相変わらず早いな」

「まーね。朝イチ、清坂さんと天内さんを拝むのが僕の日課だから」

「朝から気持ち悪いから悔い改めた方がいいぞ」



 っと、そうだ。天内さんに呼び出されてるんだった。



「ところで海斗、昨日はごめん。ちょっと取り乱しちゃって」

「いや、大丈夫だ。確かに俺と清坂さんが一緒に勉強って、イメージしづらいもんな」

「うーん。でも海斗頭いいから、頼られるのはわかるなぁ。ほら、噂をすれば」

「え?」



 まさか清坂さん?


 悠大の指さす方を見る。

 そこには清坂さんではなく、ソーニャがこっちを見て苦笑いを浮かべていた。



「にへへぇ……ヨッシー、いや吉永様。少しお願いがあるんですけどぉ……」

「はいはい。試験勉強だろ?」

「さすが! よくわかってらっしゃる!」



 この時期になると、決まってお願いしに来るからな、ソーニャは。

 問答無用でチークキスをして来るソーニャを押し返し、教室の時計を確認する。



「あ、悪い。ちょっと用事あるから行くわ。ソーニャ、勉強は放課後な」

「うん。勿論、二人っきりだよ」

「わかってるって」



 よくわからないけど、昔から二人きりの勉強会に拘るんだよな。

 多分他の人がいると集中出来ないからだろうけど。


 悠大とソーニャに軽く挨拶して教室を出る。

 天内さんが指定した四階には空き教室がある。基本的に使われないし、生徒の無断使用も禁止されている。

 詳しくは知らないけど、昔不純異性交友があったとか。それから鍵は掛けられてるはずだけど……。


 誰にも見られないように四階に行き、角の空き教室に向かった。

 手をかけ、ゆっくりと扉を引くと……開いてる。開かずの教室で、俺と悠大も鍵を掛かってるのを確認したことがあったのに。


 てことは……。



「天内さん?」

「お。パイセン、やっと来たー。遅いぞー」



 やっぱりいた。

 空き教室といっても、ここは物が乱雑に積まれた倉庫みたいになっている。周囲が物で囲われ、ある一角に穴が空いている。そこに天内さんがいた。

 椅子に座り、棒付きのキャンディを舐めていた天内さんが、ひらひらと手を振る。



「ここの鍵って、先生が管理してたと思ったんだけど」

「落ちてたから拾って型抜きして合鍵作った」

有罪ギルティ



 うん、それはダメです。ダメなやつです。



「まあまあ、いいじゃん。それよりパイセン、こっち来なよ」

「こっちって……椅子ひとつしかないけど」

「いいからいいからっ」



 なんか前にも同じことがあった気がする。

 言われた通りに近付くと、天内さんに椅子に座らされた。

 目の前には仁王立ちしている天内さん。

 腰に手を当て、口を『ωこんな』感じにしている。



「え。な、何……?」

「むふー。純夏っていつもパイセンと一緒だし、ソフレでおやすみからおはようまで一緒でしょ? なら、私にもそういうのがあってもいいと思うんだよね」

「それってどういう……って!?」



 いきなり天内さんが座ってきたっ。しかも対面座位。

 おおおお、落ち着け俺。こういうことは前にもあった。だから大丈夫。大丈夫だ。


 深呼吸を一回、二回、三回。



「な、なるほどね。清坂さんはソフレでずっと一緒だけど、天内さんはハフレだからチャンスがないと一緒にいられない、と」

「そゆことー。でも、今はそれだけじゃないよん」

「それだけじゃない?」

「パイセン、ちょっと疲れてたでしょ」



 ……え?

 脚に座っていた天内さんは立ち上がり、俺を追い詰めるように近付いてきた。

 勿論俺は動けない。座ってるし、逃げられたとしても後ろは壁だし。

 もし下手に動いて転倒したら天内さんも怪我しちゃうだろうから、何も出来ない。



「純夏っていい子だけど、ちょっと純粋すぎるからねぇ。パイセンが疲れちゃうのも無理はない」

「そ、それは……」



 まあ、疲れてたのは事実だ。

 でもそれはいやな疲れじゃない。遊園地とかで疲れても、嫌な感じはしないでしょ。清坂さんと一緒にいる時の疲れは、そんな感じだ。



「大丈夫、大丈夫。私もパイセンと純夏が超お似合いなのはわかってるからさ。でも、なんて言うのかな……パイセンが疲れてる所を見たら、なんか色んなところがくすぐられたんだよね」

「……どういうこと?」

「こういうこと」

「え……もがっ!?」



 え、これっ、抱き締められて……!?

 いやそれはいつも通りなんだけどっ、俺の顔がお胸様に包まれてててててててててて!?!?



「母性本能? 庇護欲? とにかく、甘えさせたいって思っちゃったんだよね」

「もががっ!?」

「あんっ。もう、暴れないで」



 ぎゅーーーっ。

 俺が逃げようと暴れたら暴れるほど、天内さんは力強く頭を押さえつける。

 柔らかっ、でかっ、いい匂い……!

 しかもボタンを大胆に開けてるから、温かさと柔らかさがダイレクトに……!



「よしよし。パイセン、落ち着いて」



 あ……頭を撫でられるの、いいかも……。

 なんだろう。俺、こうして頭を撫でられたこととか、抱き締められて胸に顔を埋めたこととかなかったけど……これ、やばい。ハマりそう。



「私、勉強したんだ。疲れてる男の人って、おっぱい揉むと元気出るんでしょ? 『大丈夫? おっぱい揉む?』ってやつ。元気出た?」

「……ん。出た」

「そか、よかった」



 頭をゆっくり撫でられる。

 こんなこと、学校でやっちゃダメなんだろうけど……背徳感で、気が狂いそうになる。



「天内さん」

「ん?」

「腰に腕、回していい?」

「ふふ。許可なんていらないよ。ハフレじゃん、うちら」

「……そっか」



 ゆっくり、天内さんの腰に腕を回して抱き締める。

 まるでお母さんに抱きついてるみたいだ。

 母親に抱きついたことなんてないから、わからないけど。


 これが、甘えるってことか──。



「深冬〜、きったよー。……あれ、センパイ?」

「あ、純夏」

「え」



 清坂さん?

 顔を向けると、そこには俺と天内さんを見てきょとんとしている清坂さんがいた。

 当然俺は、天内さんのお胸様に顔を埋めている状態。


 ……あ、あかんて、これは……。

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