第13話 ギャルと料理

   ◆



「それじゃ、今日から料理を少しずつ教えていきます」

「はい、センセー! 手もしっかり洗いました!」



 清坂さん、敬礼までしてやる気満々だ。

 でも手を強調してるのは何故だろう。



「今日はまず、お米の炊き方からです」

「了解です!」

「だから包丁はしまおうね」

「料理には包丁がいるんじゃないんすか?」

「今回は必要ないから、取り敢えずしまってね」

「あーい」



 お米を炊くのに、どこで包丁を使う気でいたんだろう。

 というか、今朝のお米は包丁で研いだのかな?



「さて、まずは……」

「あ、ちょっと待ってくださいっす!」



 清坂さんは思い出したかのようにリビングに向かうと、紙袋に入った何かを取り出した。

 ハサミでタグを切り、ウキウキ顔でそれを身につける。


 ──そう、エプロンだった。


 全体に白い水玉模様が描かれた水色のエプロンで、清坂さんの空色の瞳によく合っていた。


 俺のワイシャツの上から身に付けているから、なんとなく事後彼シャツを着て料理をしてる感が強い。全人類の憧れだ(俺調べ)。



「ふふん、どうです? 似合うっすか?」

「うん。可愛い」

「うっ……そ、そんなどストレートに褒められると、照れるっす……あ、ありがとうございます」



 清坂さんは頬を掻いて、にへーっと笑う。

 ホント、表情豊かな子だ。



「それじゃ、まずはお釜に二合くらい入れようか」

「はいっす!」



 カップを使い、米びつに入った米を山のように盛ってお釜に……。



「ストップ」

「あい?」

「お米の一合は、カップにすり切りで一杯で一合なんだ。山のように盛って、指で余分を落とす。これで一合だよ」

「ほへー。なるほどー」



 ボケでもなく、本当に知らなかったみたいだ。

 感心したようにメモまで取っている。可愛らしい丸文字の上に、イラスト付き。しかも相当上手い。



「清坂さん、イラスト上手だね」

「えへへ。授業中の練習の賜物っす」

「サラッと授業聞いてない発言をするな」



 全く、この子は……。



「次にお米を研ぎます。研ぐには三つの工程があって、汚れ取り、研ぎ、すすぎがあります」

「結構手間っすね」

「まあ、大体は研ぎだけで終わる場合が多いけどね。俺は美味しく食べたいし、手間は惜しみたくないから」

「むむっ、わかりましたっす。私もセンパイの為に、頑張るっす……!」



 一生懸命メモを取る清坂さん。

 なんだか親の教えることを一生懸命聞く、子供みたいだ。


 そんな清坂さんを微笑ましく思っていると、俺の視線に気付いて首を傾げた。



「な、なんすか? 私の顔に何か付いてるっすか?」

「いや、気にしないで。ちょっと微笑ましかっただけだから」

「なんか馬鹿にされてます、私?」

「そんなことはないよ。さ、やってみようか」

「うやむやにされた気分っす……あい、わかりました」



 腕まくりをし、言われた通りに米を研いでいく。

 不慣れだけど一生懸命やっているな。感心感心。



「おお、白濁液が出てきました」

「白濁液言うな」



 今日の清坂さん、下ネタが酷いな。



「これ、どれくらいやればいいんすか?」

「水が少し濁るくらいまでだね。あまり研ぎすぎると、旨味のないご飯になっちゃうから」

「なるほどです」



 水を入れ替えて、何度かといでいると。



「にゃっ!?」

「わぶっ!?」



 水の勢いが強すぎて、俺に向かって水が飛んできた。



「あっ! ご、ごめんなさいっす……!」

「い、いや、大丈夫。ただかかっただけだから」

「で、でもセンパイの顔に白濁液が……!」

「それ、冗談でも言うのはやめて」



 男に使っていい言葉じゃないからねそれ。いや、女の子相手でもダメなんだけど。


 清坂さんが研いでる間に、タオルでかかった水を拭く。

 ついでに床も拭いてっと。



「センパイ、出来たっす!」

「……うん、いい感じだね。それじゃあ次は、お釜に水を入れて30分放置します」

「放置っすか?」

「漬けておくと、ご飯が美味しく炊けるんだって」

「放置プレイで焦らされて興奮するドMみたいっすね」

「その例えはどうかと思う」



 なんだろう。今日の清坂さん、ちょっと欲求不満なのかな? さっきも壁に耳を付けてソワソワしてたし。

 ……いや、こういうのは言わない方がいいだろう。清坂さんも生きている。そういう日もあるだろうさ。


 当然だが、俺もそういう日がないと言えば嘘になる。というか清坂さんが家に来てから、満足に出来ていないのが現状だ。


 その辺もどうにか解決しなければ。



「センパイ? センパーイ?」

「っ。な、なに?」

「いや、ぼーっとしてどうしたのかなと。やっぱお疲れです? あ、そうだ! 今度は私がマッサージします!」

「えっ。いやいいよ……!」

「まあまあ。センパイ、お疲れっすよね? 時間もありますから、純夏ちゃんが色んなところを揉んであげますよ♪」



 清坂さんに連れられて寝室に入ると、数日ぶりにベッドに横になった。というより押し倒された。


 もう俺の匂いより、清坂さんの匂いが染み付いてる。全て清坂さん。やばい、これはやばい。


 清坂さんは俺の上に跨ると、俺の胸板に手を添えた。



「さあセンパイ。私がいっぱい気持ちよくさせてあげますからね」



 なんで一々えっちぃ感じで言ってくるの!?

 てか跨らないで! 特にその辺! 今アレな状態だから!



「ま、待って……! やるのはいい、だけどうつ伏せにさせてっ! 仰向けだとマッサージできないでしょ……!」

「あ、それもそっすね。それじゃあセンパイ、ごろーんして下さいっす」



 僅かに腰を浮かせ、その隙にうつ伏せになる。

 あ、危なかった。死ぬかと思った。社会的に。



「それじゃ、行くっすよー」



 背中に手が添えられる。

 いつも手を繋いで寝てるけど、本当に小さいな、清坂さんの手。



「うんしょ、うんしょ」



 ……それにしても、力弱い。びっくりするほど弱い。

 でもその弱さが心地よくて……なんだか眠気が……。


 あぁ……おち……る……すゃ。

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