第34話 ギャルと詰問(二度目)

「センパイ、お話があります」



 放課後。なんとか尋問の嵐を掻い潜り帰宅。

 だが、今度は清坂さんが腕を組んで待ち構えていた。

 その背後では、天内さんがニヤニヤ顔でこっちを見ている。

 なぜ外でも家でも質問攻めに合わなければならないんだ。



「パイセン、ほっぺにとはいえ、教室でキスとかやるねー。まさかヤリ慣れてる?」

「慣れてない慣れてない」



 というか清坂さんめ。天内さんに教室でのこと言ったな? あんまり言いふらすようなことでもないのに。


 昼間に教室に突入してきたことと合わせて注意しようとすると、眉が釣り上がり、明らかにご立腹な様子の清坂さん。

 俺が清坂さんに注意しようと思ってたのに、思わず後ずさってしまった。



「……バイトがあるから、手短にお願いします」

「わかりました。では、たんとーちょくにゅーに言います!」



 ギンッ! と眉を釣り上げ、まるで子供のように地団駄を踏んだ。



「もう! 清楚ギャル! さんの! 時! みたいに! 言い訳! 出来ないっすよ!」

「そーだそーだー!」



 天内さん、あんた楽しんでるだけだよね。

 というかそんなに大声出したら……


 ──ドンドンドンッ!!!!


 あぁほら、お隣の酒カスが暴れとる。



「ゴルルルァアッッ!! うっせぇぞォ!!!!」

「「ひぃっ! ごごごっ、ごめんなさいです!!」」



 壁に向かってペコペコ謝る清坂さん+天内さん。実にシュールである。

 まだ昼間なのに、白百合さん酔ってるなぁ。バイトから帰ってきたら絡まれそう。


 ようやく溜飲が下がったのか、白百合さんも静かになった。肝臓ぶっ壊れても知らないぞ、全く。



「うぅ……こ、怖かったっす……」

「さっき挨拶した時、凄く綺麗で清楚な人だと思ったのに……」

「こういう事があるから、ここでは静かにしようね」

「「はい……」」



 俺の制服の裾を摘んで、しゅんと落ち込んでしまった。

 一々仕草が可愛いんだから……こりゃ、悠大達も夢中になるのがわかるな。


 とりあえずリビングに移動すると、二人並んでソファーに座り、俺は対面でクッションの上に座った。


 清坂さんはジト目で俺を睨み、膝に肘をついて口を尖らせる。

 くそ、一々仕草が可愛い。



「それでセンパイ。ツキクラ先輩とはどのようなご関係で?」

「ツキクラさん、私も知ってるー。スーパー美人さんでしょ? 写真もあるよ」



 天内さんがスマホを操作し、ソーニャの写真を見せてきた。



「なんでそんな写真あんの?」

「んーとー……隠し撮り?♡」

「可愛く言っても盗撮は犯罪です」

「あぅっ」



 軽く天内さんにデコピンする。

「いじめだでーぶいだ!」と喚いていたが、無視。


 ……にしてもソーニャのやつ、盗撮で油断してるはずなのに、どんな角度から見ても凄い美人だ。中学の頃から知ってるけど、流石としか言いようがない。まさに絶世の美女。

 てか何枚盗撮してんの、天内さん。



「むきゃー! 写真なんてどーでもいいです! センパイ、ツキクラ先輩とはどんな関係なんすか!」

「どんなって……中学の頃からの腐れ縁だけど」

「はい嘘ー! 嘘確ですー!」



 嘘じゃないんだけど。

 何に怒ってるのか知らないけど、ちょっと今日の清坂さん面倒くさいな。



「友達ですらない腐れ縁の女の子が、簡単にキスするなんて思えませーん」

「するぞ、あいつ」

「……マジですか?」

「ああ。いつも挨拶でやってる。というか、キスと言ってもチークキスね」



 それでも、チークキスでの挨拶は基本女子だけにだけど。

 俺はソーニャに宿題を見せたり受験勉強を見たりと、無数の借りがあるからな。この学校に入れたのも、俺が付きっきりで勉強を見てあげたからだし。


 それでいつからか、俺にまでチークキスをするようになったんだ。

 これを言うと怒らせそうだから言わないけど。なんとなく。



「ちーくきす……それって、ほっぺ同士のキスっすよね?」

「そうだよ」



 清坂さんは腕を組んで唸る。

 と、不意に何かを思い出したのか、俺の顔をじっと見つめて自分の唇に触れた。


 あ……そういえば俺、清坂さんに頬にキスされたっけ。

 今まで気にしないようにしてたけど、改めて思い出すと……い、一気に羞恥心が湧き上がってきたぞ。


 清坂さんも同じことを思い出したのか、内ももに手を入れてモジモジした。



「ふ、ふーん……そ、それなら許しますです、はい……」

「あ、ありがとう……」



 なんとも言えない微妙な空気に、二人揃って目を逸らした。

 確か、初めてソーニャにチークキスされた時もこんなリアクションしたなぁ……あいつはキスなんて慣れてるっぽいから、気にしてなさそうだけど。


 頬にキスされた箇所が熱を持ったみたいで、無意識のうちに掻いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る