第98話 隣人とお出掛け

 天内さんを家まで送り、俺と純夏は並んで家に帰って来た。

 はぁ~……ひっさびさにこんなに遊んだ気がする。

 いい感じの疲労感で、まぶたが重くなってきた。

 けど純夏は夏祭りしか考えてないのか、ずっとスマホで夏祭りについて調べている。



「なっつまーつりー♪ なっつまーつりー♪」

「こら純夏。まずは手洗いうがいしなさい」

「あーい」



 純夏が手洗いうがいにいっているうちに、俺も純夏への誕生日プレゼントを考える。

 誕生日プレゼント……何をあげれば喜ぶんだろう。

 化粧品は前にプレゼントした。

 今回はもっと別のものをプレゼントしてもいいと思う。

 けど……正直、俺の頭ではいい感じのプレゼントが思い浮かばない。



「女子へのプレゼントなんて、どうしたらいいんだ……」



 また白百合さんや花本さんに頼るしかないかな。

 いや……やめておこう。

 あの2人のことだから、変なものを勧められそうだ。

 特に酔った白百合さん。あれはやべぇ。

 けど1人で悩んでたら、1週間なんて一瞬で過ぎる。

 一応、白百合さんの部屋に行こうかな……酔ってなきゃいいけど。



「ごめん純夏。ちょっと白百合さんのところ行ってくる」

「ほぇ? な、なんでですかっ? まさか白百合さんで発散するつもりっすか!?」

「なんのことかわからないけど、断じて違う」



 何を言ってるんだこの子。



「とにかく、ちょっと隣人として用があるだけだから。純夏は大人しく待ってること。いいね?」

「ぐぬぬ……お留守番を言われているわんこの気分っす……!」

「いい子にお留守番してたら、あとで美味しいもの食べさせてあげるから」

「いい子にしてるっす!」



 素直でよろしい。

 念の為スマホと財布を持って外に出る。

 と、その時──お隣の扉が開き、白百合さんが出てきた。



「あ、白百合……さん?」

「……あ、海斗くん。こんにちは」

「こ……こんにちは」



 ……白百合さん、だよな……?

 なんかすごくやつれてると言うか、めちゃめちゃ暗い雰囲気なだけど。

 どうしたんだろう、いったい。

 二日酔いって訳でもなさそうだ。オシャレもしてるから、これからどこかに行くんだろうか。



「お出掛けですか?」

「え、ええ。まあ……」



 目を泳がせて、もじもじしている白百合さん。

 こんな白百合さん、初めて見た。



「そうですか。実は白百合さんに聞きたいことがあったんですけど……またにしますね」

「……聞きたいこと……あっ!」



 え? うおっ!?

 白百合さんが、いきなり距離を詰めてきた。

 ちょ、近っ。距離近い……!

 香水を付けてるのか、いつもよりちょっと色っぽいし……!



「か、海斗くん、今お時間ありますか!?」

「え、ええ。まあ暇っちゃ暇ですけど……」

「少し私に付き合ってくださいっ、お願いします!」

「え、えっと……?」

「付き合ってくれなきゃ聞きたいことを教えてあげません!」

「じゃあ花本さんに聞くので」

「お願いです付き合ってくださいぃ〜!」



 ちょっ、そんな大きな声出さないで……!



「わかった、わかりましたから……!」

「! えへへっ、ありがとうございます」



 あ、コノヤロウ涙引っ込みやがった。

 なんか言いように使われてる気がする。

 白百合さんと一緒にアパートを出ると、並んで駅へ。

 こんなに連日出掛けるなんて、ここ数年の俺じゃあ考えられないな。

 電車に乗り、どんぶらこどんぶらこと揺られる。



「……そういえば、どこに向かってるんですか?」

「言ってませんでした? 私の実家です」

「へぇ、実家に……なにか大きな荷物を取りに行くんですか?」

「いえ。親に会ってもらいます」



 …………。

 ………………。

 ……………………は?



「な、なんで……?」

「海斗くんには、彼氏として私の親に会ってもらいます」



 ワォ。

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