第97話 ギャル友と内緒話

「さて、そろそろ帰ろっか」



 寝ている間に洗濯と乾燥を終えた服に着替えて振り返る。

 が、2人はソーニャの腕に抱き着いたままソファーに座っていた。



「まだここにいたいっす〜」

「ツキクラパイセンとまだ遊ぶ〜」

「あはは……なんか気に入られちゃった」



 仲良くなったのは嬉しいけど、ここ数日で何があった。

 そんなに仲良くなるようなことあったっけ?



「ワガママ言うんじゃありません。迷惑かけちゃうでしょ」

「えぇ〜……わかったよお母さん」

「ごめんなさいっす、お母さん」

「誰がお母さんだ」



 2人は渋々といった感じでソーニャから離れ、俺と一緒に玄関へ向かった。



「悪かったな、ソーニャ。いきなり泊まらせてもらって」

「いやいや。気にしなくていーよ。私も楽しかったから」

「じゃ、またな」

「おいっすー」



 ソーニャに挨拶すると、2人もソーニャに手を振った。

 突然のお泊まりだったけど、楽しかったな。

 そのまま玄関を出ようとする。

 と、ソーニャが「あ、そーだ」と声を上げた。



「ヨッシー、しゅーまつのアレ、行く?」

「え? ……あぁ、そういやもうそんな時期か」



 色んなことがありすぎて忘れてた。そっか、もうそんな時期か。

 毎年行ってるし、今年も行くか。



「行くぞ。ソーニャは?」

「ヨッシーが行くなら行くー」

「じゃ、悠大も誘うか」

「おけおけー。ゆーだいは私のほーから連絡しておくよ」

「助かる」



 最後にじゃっと挨拶し、2人を連れて家を出た。

 あっつ……陽射しがきつい。もうプールが恋しい。



「ねー海斗君、さっきなんの話してたの?」

「カイ君、どこに行くんすか?」

「え? ああ、そうか。2人は行ったことないのか」



 中学が割と離れてるし、学区外だとなかなか行く機会もないからな。



「この近所にある神社で、夏祭りがあるんだ。花火もやるし、楽しいよ」

「なっ!?」

「夏祭りっすか!?」

「うん。結構大きい祭りだけど……行っちゃう?」

「「行っちゃう!」」



 2人はもう夏祭りモードなのか、スマホであれこれと調べて話している。

 楽しみなのはわかるけど、歩きスマホはやめなさい。



「夏祭りってことは、浴衣っすよね! 深冬、今年もお願いできる?」

「もちろん! 今年も可愛く着付けてあげるよ」



 なんと、天内さんの家には浴衣もあるのか。

 俺はそういうの持ってないし、実家にもないから、ちょっと羨ましかったり。

 まあ、夏の夜に動きにくい格好も、何かあったときに困るからな。

 俺はいつも通り、私服でいいや。

 なんて思っていると、天内さんが俺の腕をつついて内緒話のように耳元に口を近づけてきた。



「海斗君、海斗君」

「ん?」

「夏祭りの日、何か考えてる?」

「……何かって、何が?」



 なんのことだろう。何も考えることはないと思うけど。

 が、天内さんは信じられないようなものを見る目で見てきた。



「ちょ、ほんとに? え、まさか知らない……?」

「だから何が」






「この日、純夏の誕生日だよ」






 …………。



「マジ?」

「じょーだんじゃこんなこと言わないって」



 ですよね。

 いや、え、まじかぁ……俺何も知らなかった。

 そっか。純夏にも誕生日ってあるよな。全然意識してなかった。

 となると、プレゼントを用意してやらないと……。

 またスクシェアミの化粧品でもプレゼントするか……?

 いや、それじゃあ芸のない奴だと思われる。

 女の子へのプレゼント……何をプレゼントしたらいいんだ……?



「カイ君、深冬。何話してるのー?」

「い、いやっ、なんでもないよ」

「そーそー。内緒話ー」

「むっ、ずるい。私も内緒話するー!」



 と、反対側の腕に純夏が抱き着いてきた。

 それ内緒話の意味ある?

 あと2人とも、外でそんなにくっつかないで。

 道行く主婦さんたちが、俺を女の敵を見るような目で見てくるから。

 ごめんなさい、違うんです。……いや、ある意味違くはないけど、本当に違うんです。

 俺はなるべく顔を伏せ、汗だくになりながら我が家へと帰って行ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る