第96話 寝起きと親フラ

   ◆海斗side◆



「……どうしてこうなった」



 左隣にいるのは純夏。それはいつも通り。

 けどいつもと違うのは、右腕にはソーニャが抱きつき、上には天内さんが乗っかっている。

 うわ、しかもヨダレ垂らしてるし。胸元めっちゃ濡れてるんだけど。

 あの時、2人が内緒話してたのはこれか。

 ……時間、何時だろう。まったく動けない。

 このまま寝てもいいけど、寝れるほどの胆力はない。

 当たり前だろ。こんな美少女3人に抱き着かれて眠れるほど、俺は達観していない。

 寝ぼけた頭が徐々に覚醒していく。

 けど動けないから、何もしようがない。詰んだ。

 ぼーーーーーーーー……。



「……ん? あ」

「あ」



 ……ソーニャの、お母さん?

 あれ、なんでここに……? 昨日は家に帰ってこなくて、でも今は昨日の明日で……あれ?

 ベッド脇に佇んでいるソーニャのお母さんは、微笑んでるのか無表情なのか分からない顔で俺たちを見下ろす。

 ……これ、もしかしなくてもまずい状況なのでは?



「お、おはようございます……?」

「おはようございました」



 とりあえず挨拶する。

 なんで。どうして。いつからそこに。

 色んな疑問が頭に浮かび上がる。



「え、と……違うんです」

「どこも違わないます」



 ですよね。どう言い訳しても無意味っすよね、これ。



「事後?」

「断じて違います」

「知ってるます。えっちな匂いしないますから」



 くんくんと鼻を動かすソーニャのお母さん。

 ちょ、そんな匂い嗅がないで……。



「こ、このことは何卒ご内密に……!」

「大丈夫ます。パパには言いませんから。高校生なら、男女での雑魚寝は普通ます」



 俺が言うのもなんだけど、普通じゃない。まったく普通じゃないから。



「パパはまだ帰ってこないます。これからデートしてくるので、夕方頃に帰りますね」

「わ、わかりました」

「その代わり──」



 パシャリ、パシャリ、パシャリ。

 ……え、それ……カメラ!?



「証拠写真はもらうます」

「なんの!?」

「あとこれ、念の為に置いとくます」



 と、ソーニャのお母さんがポシェットから箱のようなものを取り出し、ベッド横のテーブルに置いた。



「あの、それは?」

「避妊具」

「ぶっ!?」

「12個入りなので、多分間に合うます。それでは」

「ちょ!」



 そそくさと部屋を出ていってしまった。

 それはもう、忍者のような素早さで。

 あの人、何を考えてるのかまったくわからん。どうしてこうなった。



「むにゅ……かいくん、うるさいっすぅ……」

「ふああぁ〜……よっしー、うごきはげしぃ……」

「くかぁ〜……ぐぅ〜……」



 あ、2人起きた。天内さんはまだ寝てるけど。

 もぞもぞと俺の腕に引っ付くと、同時にあくびをした。シンクロしてんなー。



「……あれ。ツキクラせんぱい、なんでそこに?」

「……ねぼけた」

「あー、あるあるっすねぇ〜」



 まだ眠いのか、言葉の端々がほにゃほにゃの2人。

 にしても……まずい。2人が動いたから俺の着ている和服の裾や襟が乱れた。

 今、布団の中の俺、だいぶやばい状況。

 純夏とソーニャで腕を固定され、さらに寝ている天内さんに抱き着かれているから、直そうにも直せない。

 今布団を捲られたら……終わる。



「お、おはよう、2人とも。ソーニャ、今何時だ?」

「じかん……んとね……はちじはん」



 時計を見るために起き上がったソーニャ。

 その隙に、片方だけ自由になった手で色々と直した。乱れとか、ポジションとか。

 もぞもぞ、もぞもぞ、ふに。



「ひゃう!?」

「ん?」



 指先に何か当たったような。

 でもそのせいで(おかげで?)天内さんが起きた。

 勢いよく起き上がったせいで、布団が思い切りめくれ上がったけど。

 急いで襟だけ直すと、真っ赤になった天内さんに睨まれた。なぜ?



「お、おはよう、天内さん」

「……ばか。えっち。海斗君、へんたい」

「なんで!?」



 俺何もしてないけど、とんでもない汚名を着せられた気がする。

 でもこれ以上、この話を深堀するのはよくない気がする。

 じとーっと見てくる天内さんの視線から逃げるように目を背けると、根本的な疑問が浮かんだ。



「それより、なんで俺の上に?」

「……寝ぼけてた」



 みんな今日寝ぼけすぎじゃない?

 天内さんも俺から顔を逸らすと、ある一点を見て目を見開いた。



「え、あれ。え……?」

「天内さん?」

「あああああああれって、まままままままさか……!?」



 あれ? ……あ。

 そこにあったのは、さっきソーニャのお母さんが置いていったあれ。いわゆるゴム。



「一応言っておくと、俺じゃないからね。ソーニャのお母さんが置いていっただけだから」

「えっ、おかーさんまた帰ってきたの!?」



 さすがに聞き捨てならなかったのか、ソーニャが飛び起きた。



「も〜! 帰ってくる時は連絡してってあれだけ言ったのに……!」

「寝てたじゃん、俺ら」

「あ、そっか」



 物わかりがよくて助かる。



「えっと……じゃあ、使わないの?」

「使うと思ってるの?」

「……そう……」



 なんで残念そうな顔なの天内さん。



「というか、そろそろみんなどいてくれないかな。全身が痺れて感覚なくなってきた」

「「「あ」」」

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