第24話 ギャルともちぷに

 朝食兼昼食を食べてから、清坂さんの要望で勉強を見てあげることに。

 どの程度の学力か確認するために、現国、数学、化学、歴史、英語の問題集を少しずつ解いてもらったんだけど……。



「見事に壊滅だね」

「えへへ~」

「褒めてない」

「あう」



 脳天チョップ(弱)。清坂さんは涙目になった。



「うぅ~っ。勉強むずいっす……!」

「まあ、最初はそんな感じだよ。少しずつ教えていくから、一緒に頑張ろうね」

「あいっ」



 とりあえず数学から。

 対面に座り、一個ずつ教えていく。

 鎧ヶ丘高校の入試は通ってるわけだから、中学レベルは問題なさそうだ。それに多分、地頭も悪くないだろう。鎧ヶ丘高校の入試は、そんな甘いものじゃないから。


 なら、まだ入学して数ヶ月しか経っていない。今から勉強すれば、十分に間に合うだろうね。


 部屋の中に、ノートにシャーペンを走らせる音が響く。

 一旦手を止めて清坂さんを見ると、頑張って数学の問題と睨めっこしていた。



「センパイ、この問題って、こっちの問題ってこの公式ですか?」

「そうそう。それをこうして……」

「あっ、なるほどっす!」



 これだけの説明で理解してくれると、教えがいがある。

 ……そう言えば、なんで清坂さんはうちの高校に来たんだろうか。気になるな。



「ねえ清坂さん。どうして鎧ヶ丘高校に来ようと思ったの?」

「特に大した理由はないっすよ。ただ家から近かったのと、制服が可愛かったからってだけっす」



 本当に大した理由じゃなかった。

 でもそれだけの理由で鎧ヶ丘高校の入試を通るって、凄いな。



「っし。センパイ、出来たっす!」

「ん、どれどれ。……おお、合ってるよ」

「いえーい! 休憩っすー!」

「一問解いただけで休憩するんじゃありません。ほら、次はこっち」

「んぇ~。センパイ、厳しいっす……」



 う。しょんぼり顔をされると、ちょっと罪悪感が……い、いや、勉強は集中力が大事だ。こまめに休憩を入れすぎても身にならないからね。ここは心を鬼にして。


 最初にやり方と公式の使い方を教え、少し考えさせる。

 わからないところは手助けするけど、わかるところは着々と解いていく。少し教えただけなのにこんなに解けるって……。



「清坂さんって、もしかして天才肌?」

「肌? 肌はもちぷにっすよ。ほらっ」



 俺の手を取って、自分の頬に擦り付けてきた。



「ちょっ……!?」

「ほらほら、どうっすか?」



 もち、ぷに、すべ。

 確かに凄い。こんな弾力の肌、触ったことがない。いや触る相手とかいないんだけど。

 放心して、そっと撫で続けてしまう。

 その度にくすぐったそうに、そして嬉しそうに目を細める。

 撫で、つまみ、押し。心を許してくれているみたいで、好きなように触らせてくれる。


 可愛い。なんだこれ、可愛すぎる。


 勉強しなきゃいけないのに、無言で触れる時間が流れる。

 が、それで油断してるのか、シャツがずり落ちて水色のブラジャーと深い谷間ががっつりと――。



「「ッ!?」」



 顔を逸らす俺。胸元を隠す清坂さん。

 い、今のはヤバい……というか、許されたとはいえ女の子の肌を触るのってアウトだろう。何をしてるんだ俺はっ。



「ご、ごめん。その……」

「い、いえ、大丈夫っす。せ、センパイになら……」

「……え?」

「な、何でもないっす! さ、さあ、勉強の続きやるっすよ!」



 な、何だ? 何を言いかけたんだ?

 ……聞かないでおこう。その方が今はいい気がする。

 とにかく勉強に集中しよう。煩悩を勉強で吹き飛ばすんだ。


 清坂さんも同じことを思ったのか、数学の問題に挑む。

 とにかく集中、集中、集中。


 結局、バイトの始まる三十分前まで休みなく勉強に没頭し続けた。その結果。



「……だりぃ」



 バイトに全く集中出来ないでいた。

 今日もパートナーとして組んでいる花本さんが、賞味期限の切れた弁当を棚から外しながら、眠そうな目でこっちを見てきた。



「吉永、どしたー?」

「あ、いえ。ちょっと疲れがありまして」

「なんだよ。バイトの時間までヤりまくりか?」

「してねーわ」

「知ってる。そんな雰囲気もなかったし」



 こ、の……童貞をからかうんじゃないよ。

 花本さんは籠に入っている弁当をバックヤードに持っていき、隠しもせず欠伸を漏らした。



「で、何か進展はしたのかい?」

「あー……いえ、特に何も」

「もしヤるのが無理なら、一回告ったらどうだい。恋かどうかわからなくても、付き合ってから育む恋ってのもあると思うよ」

「お……おぉ。花本さんから、初めてまともなアドバイスを聞けた気がする」

「おいコラ」



 いや、結構マジで。

 告白……告白か。これが普通に仲のいい男女だったら、それでいいと思う。

 だけど俺と清坂さんは、ソフレという歪な関係だ。

 家では常に一緒にいるし、この関係が凄く心地いい。だから壊したくないし、まだ離したくない。

 それを壊さず、一歩関係進める方法……難しい。



「人生、ままならないもんですね」

「高校生の青二才が何言ってやがる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る