第23話 ギャルと詰問

 家に帰ってきたのは10時過ぎ。

 流石に起きていた清坂さんは、熱心にスマホを弄っていた。



「ただいま、清坂さん」

「センパイお帰りなさいっす。ちょっと聞きたいことがあるんすけど」



 え、清坂さん怒ってる? なんで?

 腕を組んでじどーっとした目で俺を睨んでくるけど……俺、何かやっちゃった? 出掛けることは、メッセージに残したはずだけど。



「センパイ。どうして私が怒ってるか、わかりますか」

「全く」

「即答しないでください!」



 即答するレベルで身に覚えがないんですもの。



「仕方ありません。わたしも面倒くさい彼女面ムーブも、ちょっと怠くなってきたので。これ、なんですか!」



 ずいっとスマホを見せてくる。そこには、メッセージアプリのトーク画面が映っていた。



 深冬:今、ウチの店に来たガッコーのパイセンと仲良くなったー。結構イケメン

 純夏:マジ? 深冬が言うならそーとーだね。誰?

 深冬:吉永海斗って人。ポイントカードの漢字がこんなんだった

 純夏:は? ……は?(╬°▽°)

 深冬:え、どーしたん? なんか怖いよ?((( ゜ д ゜ ;)))

 深冬:す、純夏? おーい?



 情報のリークが早すぎる。

 清坂さんは風船のように頬を膨らませ、地団駄を踏んだ。



「なんで深冬とセンパイが仲良くなってるんすか!」

「いや、行きつけの本屋に行ったら、その人の孫が天内さんだったってだけだよ」

「本当すか!? 私に隠れて逢引してたんじゃないっすか!?」

「なんで逢引なんて言葉知ってんの」



 浮気を問い詰められてる男の気分。いや浮気じゃないんだけどさ。



「深冬、かなりのイケメン好きなんですっ。そんな深冬にイケメン認定されたってこと、もっと自覚して欲しいっす!」

「と言われても」



 今日会ったばかりだし、面と向かってイケメンって言われた訳でもないし。

 それに俺がイケメンだったら、悠大とか見たら卒倒するんじゃないだろうか。



「とにかく、清坂さんが思ってる関係じゃないよ。仲良くと言ってもちょっと話しただけだから」



 むしろあれだけの会話で仲良くなるって、陽キャの距離感どうなってんだろう。

 それでも清坂さんは納得いってないみたいで、腕を組んでムスーッとした顔をしている。



「でもセンパイ。深冬に興味持たれて嬉しいんじゃないんすか? 深冬、かわいーし……」

「え? あー……清坂さんみたいな可愛い子と毎日添い寝してるから、嬉しいって感覚はあまり……あ」



 やべ、口滑らせた。

 俺はこれまで清坂さんと一緒にいて、直接可愛いって言ったことがない。

 もし俺の失言が清坂さんを怒らせた場合、この心地いい関係が解消される可能性があるから。


 恐る恐る清坂さんを見ると、一瞬体をビクッとさせが、直ぐに満更でもない顔をした。



「へ、へぇ……センパイ、私のことかわいーって思ってるんだ……ふーん……」

「ご、ごめん。気を悪くしたなら謝る」

「べべべ、別に怒ってないっす。……嬉しいっす」

「そ、そっか……」



 ま、まあ女の子だもんな。可愛いって言われて、嬉しくないはずはないか。

 よかった。怒ってたら、もう一緒に寝てくれないものかと。


 内心胸を撫で下ろしていると、清坂さんは軽く咳払いをした。



「まあ、センパイが深冬をそういう目で見てないことはわかりました。最近は妙な噂のせいで、深冬を変な目で見る輩が増えましたから」

「そういえば、天内さんもそんなこと言ってたな。噂ってなに?」

「根も葉もない噂っすよ。売りしてるとか、パパ活とか。私もそんな噂されてるっす。完全にモテない女の僻みっすね」



 確かにそれは酷い。

 そういう噂があるから、天内さんも俺を敵視するような目で見てたのか。

 俺にはわからないけど、軽い女って思われると、そういう誘いが多くなるのかもしれない。


 …………。



「もしかして、清坂さんもそういう誘いがあったり……?」

「ありますよ。ナンパもあるっすけど、全部撃退してるっす。私ら、軽い女じゃないんで」



 シュッシュッ、とシャドーボクシングをする清坂さん。

 軽くはないだろうけど、男とソフレしてるのはいいんだろうか?



「さて、誤解も解けたことですし!」

「一方的に誤解されてただけの気もするけど」

「乙女の可愛い勘違いだと思って許してください、てへっ♪」



 そんな安直なてへぺろ表現、初めて見た。



「それよりセンパイ、勉強見てくださいよっ。私待ってたんすから」

「あ、そうだった。……先にご飯にしようか。朝と昼が同じになっちゃうけど」

「おいっす!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る