第22話 ギャル友と本屋
起きたら既に9時だった。
夜遅くまで起きてたとはいえ、ここまで爆睡したのは久々だな、本当。
もう清坂さんは起きてるのか、ベッドの上にはいなかった。
起きてたリビングに入ると、ソファーで寝落ちしている清坂さんが。机には教科書やノートが広げられてるし、勉強するつもりだったんだろう。
とりあえず起きるまで、寝かせておいてあげるか。
ブランケットを掛け、コーヒーを入れる。
今日の予定は特にない。夜にバイトがあるけど、それまでは暇だ。
清坂さんの勉強は見てあげるけど、一日使うようなことでもないし……どうしよっかな。
なんとなくカレンダーを見る。
「……あ、今日漫画の最新刊の発売日だ」
あれは発売日にゲットしておきたい。
清坂さんはまだ起きる気配ないし……行ってきちゃうか。
メッセージに出掛ける旨を残し、シャツにスキニーパンツとラフな格好で家を出た。
小さいけど、朝9時から開いている本屋に向かって自転車を漕ぐ。
日差しが痛くなってきた。もうそろそろ、本格的に夏が始まる。
夏か……今年はどんな夏休みになるんだろう。
清坂さんはいるのかな。でもそんなに長くは居候もしないだろう。
清坂さんが家に来て一週間も経ってないけど……もしいなくなったら、寂しいだろうな。
夏休みも、清坂さんは俺と会ってくれるだろうか。
添い寝……は、流石に無理か。
でも昨日は、清坂さんが傍にいないと不安になったな……。
「っ……はは。俺、清坂さんに依存してるわ」
こんなの、いつまでも続くわけじゃないのに。
自嘲気味に笑い、自転車を漕ぐことに集中する。
二十分ほど漕いで、ようやく目的の本屋に着いた。
おじいちゃん店長がやってる本屋で、漫画やラノベの種類も豊富だ。新刊コーナーも充実してるし、凄くお世話になっている。
新刊のコミックを数冊。それに気になっていたラノベもいくつか籠に入れ、レジに持っていく。
が、そこにいたのはいつものおじいちゃんではなかった。
「らっしゃーい」
「え……天内さん?」
なんと。清坂さんの幼馴染みでギャル友、そして一年生の二大美女の一人。天内深冬さんがいた。
「ん? ……おにーさん、どっかで会ったっけ?」
「あ。ご、ごめんなさい。学校で見掛けたことあるくらいで……」
「あー、じゃあ
「に、二年」
「じゃーパイセンだ。シクヨロっす」
凄くノリが軽いな、天内さん。
籠を渡すと、手際よくレジに読み込んでいく。
「にしても、パイセンもウチのこと知ってんだ。まあゆーめいだからね、ウチ」
「そうなんだ」
「は、ウケる。パイセンウチの名前知ってんじゃん」
「いや、友達が教えてくれるまで知らなかった」
「…………」
ポカーンとした顔で俺を見てくる天内さん。え、何、どしたの?
「……えっと……ヨロ高の二年なんだよね?」
「まあ」
「それなのに、ウチの噂聞かないの?」
「俺、噂って嫌いなんだよ。大体は事実じゃないし」
どうして事実じゃないことを、嬉々として言いふらすのか。昔から不思議でならない。
「……ふーん……そっか。パイセン、名前は?」
「ん? 吉永。吉永海斗」
「海斗パイセンね。覚えた」
えっ、何怖い。そんなヤンキーが絡んでくるようなトーンで「覚えた」とか言わないで。
と、とにかく話題を変えよう。
「天内さんはなんでここに? いつもおじいちゃんがいたと思うけど」
「ここのじーちゃん、ウチの祖父なんよ。で、たまに手伝ってる。まあ今は家出して、この家にお世話になってんの」
「ああ、昨日の……」
「……昨日?」
「あ、いや、なんでもない」
あっぶな。清坂さんとの電話なのに、俺が知ってるなんてどう考えてもおかしいからな。
天内さんは訝しむように首を傾げたけど、直ぐに興味をなくしたのか、レジを打ち込んでいく。
「ねー、パイセン。聞いていい?」
「ん、何?」
「パイセンは、ギャルってどう思う?」
「……いいんじゃないかな。特別、ギャルが好きってわけじゃないけど。道を踏み外さなければ自由にしていいと思うよ」
って、あれ? なんか前に、清坂さんにも同じようなこと言ったな。
でも天内さんはこの言葉が嬉しかったみたいで、パッと顔を輝かせた。
「そ、そうだよねっ。えへへ……パイセン、いい人だ」
「俺がいい人だったら、世の中聖人君子だらけだよ」
「ごめん何言ってんのかわかんない」
「なんでだよ」
そんな難しいこと言ってないけど、俺。
読み込みが終わってポイントカードとお金を丁度渡し、商品を受け取った。
「じゃ、パイセン。またガッコーでね」
「……じゃ」
手を振ってくる天内さんに、手を上げて返す。
まあ、見掛けたら声を掛けるくらいしてもいいかな。
……下手に声掛けると天内教に目をつけられかねないから、俺から声を掛けるのはやめておこう。
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