第21話 ギャルと安心
「ただいまー」
「お帰りなさいっすー」
リビングにいた清坂さんが、てけてけと近付いきた。
まるで飼い主の帰りを待っていた犬。なんか可愛いな。
って、また俺のシャツ着て……確かにダボダボの服の方が過ごしやすいけど、せめて下着は見えないようにして欲しい。
玄関に座って靴を脱いでると、清坂さんが鞄を持ってくれた。なんか奥さんみたいなことするね、この子。
それにしても……花本さんに相談した後だからか、清坂さんを前にすると緊張する。
この気持ちがなんなのかハッキリしないから、
どう接するのがいいのかわからないし。
「な、なんですか? 私の顔に何か付いてるっすか?」
「……いや、なんでもない」
「そっすか」
この気持ちには、今は蓋を閉めておこう。
清坂さんは俺を信頼している。俺が清坂さんに恋(仮)をしてるなんて知られたら、この関係も崩れるだろう。
最初は不純に思っていたこの関係も、今は凄く心地よく感じている。
人間って順応するんだなぁ。
「今日は何してたの?」
「今日はですね! なんと勉強してたんす!」
「え、勉強?」
リビングのテーブルの上には、なんと清坂さんが勉強してたと思われるノートと教科書が置いてあった。
ノートはほぼ
でもちゃんと勉強しようとした後はある。
「まあ、サボりすぎててちんぷんかんぷんなんですが……」
「でしょうね」
「ちょっとはフォローしてくださいっす!」
フォロー出来ないっす。
「それにしても、どうしていきなり勉強を?」
「そりゃ、センパイの影響っすよ。前にも言いましたけど、センパイ見てたら自分も何かやらなきゃなーって思って」
「あー、言ってたね」
それで手始めに、勉強と料理ってことか。
幸いにもどっちも俺の得意分野だ。
「教えてあげようか、勉強」
「えっ!? いいんでっ……ぁ……」
え? 何? 一瞬顔を輝かせたけど、直ぐにしょんぼり顔に。
「でもセンパイ、自分の勉強に料理にバイト。それに加えて私の面倒まで見ちゃったら、本当に倒れちゃいますよ……」
「そんな、気にしなくていいのに」
「気にするに決まってますよ」
うーん。そんなに忙しそうに見えるかな、俺。
俺個人としては、全くそうは思わないけど。努力というかほとんど習慣だし。
「プレゼントまで貰っちゃったし……私、センパイに貰ってばかりっす……」
あらら、落ち込んじゃった。
「なら、いつか何らかの形で返してくれたらいいよ」
「何らかっすか?」
「うん。いつか清坂さんが、これだってもので返してくれたら、それでいいから」
「何らか……」
清坂さんは腕を組んで首を傾げる。そこまで深刻に考えなくても。
別にお菓子の詰め合わせとか、本当に何でもいい。清坂さんがやる気になったから、その手助けをしてるだけだから。
「……わかりました。今は思い付かないっすけど、いつか絶対返すっす!」
「うん、ありがとう。今日は疲れてるでしょ。明日は土曜日だから、明日から頑張ろうね」
「はいっす!」
両手敬礼ビシッ。ちょっとマヌケっぽいけど、そこが可愛い。
とりあえず風呂にでも入ってこよう。晩ご飯、どうしよっかな。
風呂に入り、夕飯は軽く肉野菜炒めを作った。
タンパク質も栄養も取れるし、何だかんだ作る頻度が高くなっちゃうんだよね。
そして24時。初めて清坂さんと過ごす週末だから、俺達はまだ眠らずに起きていた。
清坂さんは俺の腕を枕に、メッセージアプリをポチポチしている。どうやら相手は、天内さんらしい。
「清坂さんと天内さんって、仲良いよね。この間も一緒に登校してたし」
「まー、幼馴染みっすからね」
「へー」
「自分で聞いてきて、その淡泊な返事はどうかと。……って、電話掛かってきた。ちょっと失礼するっす」
「いいよ」
清坂さんは起き上がり、受信ボタンをタップした。
「もすもす。どしたー」
『────!! 〜〜〜〜!!』
「は? うるさ。近所メーワクだから」
へぇ、清坂さんって天内さんの前ではこんな風に電話に出るんだ。
って、それにしても声がデカいな、天内さん。スピーカーになってないのに、俺にまで声が聞こえてくるぞ。
「は? お父さんと喧嘩? またかよー、今月何回目よそれ」
『…………! ────!!』
「あーはいはい。愚痴なら聞くから、まずは落ち着けし」
清坂さんはこっちに手を向けてぺこりと謝罪すると、リビングの方に行ってしまった。
時間が掛かりそうだし、俺は先に寝てるか。
電気を消し、布団に包まる。
そのまま目を瞑ることしばし。
……えっ、眠れないんだけど。何これ。
もうすぐ1時だ。いつもなら絶対寝てる時間。なのに眠るどころか、眠気も来ない。
というか、時間が経つにつれて不安が膨らんでいく。
そっと起き上がり、リビングに向かう。
清坂さんはまだ電話してるっぽかった。懸命に天内さんを慰めている。
「それで……ぁ、ちょっと待って。ごめんなさい、センパイ。うるさかったっすか……?」
「いや、大丈夫だよ」
とりあえず清坂さんの隣に座る。
清坂さんは首を傾げたが、天内さんに『もしもーし』と声を掛けられてそっちに戻った。
……清坂さんの隣、落ち着く。というか安心する。
どうやら清坂さんだけじゃなく、俺も清坂さんが隣にいないと眠れない体になってしまったらしい。
それに、一気に眠気が……。
「ぁ、あー……ごめん、深冬。そろそろ夜も遅いしさ、またがっこーで愚痴聞くよ」
『ん。わかった……ごめんな、夜遅くまで』
「気にすんなって。じゃ、おやすー」
『あーい』
あ、電話終わったみたい。
「ごめんなさいっす、センパイ。もう眠いっすよね」
「んー……清坂さんが隣にいたら、安心して眠くなってきた……」
「! ……ふ、ふふ。もー、センパイ可愛いんだからっ。じゃ、ベッド行きましょうね〜」
子供扱いされてる気がする。
でも、それも眠気でどうでもいい。
清坂さんと手を繋いでベッドに入りこむと、清坂さんの温もりとベッドの柔らかさで思考がぐちゃぐちゃになって来た。
と、頭に何かが触れ、撫でられる。
多分清坂さんの手だ。撫でられるのって、凄くいいな……。
「ふふ。おやすみなさい、センパイ」
「……おやすみ……」
すゃ……。
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