第57話 ギャルたちと自己採点

 今日からテスト週間だ。

 流石に期末テストということで、俺も一週間前からはバイトは休みにしている。

 まあ自分の勉強だけじゃなく、放課後はソーニャ。家に帰ったら清坂さんと天内さんの勉強は見てるんだけど。

 でもそのおかげで、俺の基礎知識も固められた気がする。

 やっぱり誰かに教えるっていうのは、それだけで勉強になるものだ。


 けど、ソーニャとは結局あれから微妙な空気が流れていた。

 誘惑作戦はある意味成功だ。俺もめちゃめちゃ意識してるから。

 まあほとんどソーニャの自爆のようなもんだけど。

 でも最近はそのことも吹っ切れたのか、ソーニャはいつも通り俺に接している。相変わらず誘惑誘惑うるさいけど。


 テスト初日が終わり、ソーニャと悠大は俺の周りに集まって自己採点をしていた。



「んぁー。テスト疲れたぁ〜……」

「ソフィア、まだ初日だよ」

「普段から勉強してれば、こんな慌てる必要はないのにな」

「あー、むりむり。私遊びが仕事みたいなもんだから」



 それが許されるのは小学生までだ。



「そういって好き勝手ゲームを買って、万年金欠なのはどこのどいつだ」

「ドイツじゃないよ! ロシアとのハーフだよ!」

「知っとるわバカタレ」



 頭空っぽかこいつ。

 ソーニャの頭にチョップを連発していると、悠大が「まあまあ」と止めに入った。



「それより、テスト終わったらどこか遊びに行かない?」

「おー、いいなそれ。プールとか行くか」

「行く! 絶対行く!」

「なら赤点ゼロ目指せ」

「んえぇ〜……しょーがない。明日から本気出す」

「今日は終わったもんな」



 ソーニャが一番苦手な現国は今日終わったから、後はなんとかなるだろう。

 清坂さんと天内さんはどうだろうか。

 勉強は頑張ってたみたいだけど……。

 二人のことを考えてると、対面に座っていたソーニャに脚を蹴られた。

 って、痛い痛い。無言でずっと蹴らないで。



「よしっと。僕の方は自己採点終わったよ」

「どうだった?」

「一応、全部七十点は越えてるかな。海斗の解答が間違ってなければ」

「なら大丈夫だな」

「相変わらずすごい自信だね」

「勉強しか自信あることないしな」



 言ってて悲しくなってきた。



「はいはいはーい! 私もおわたー!」

「おー。ソーニャはどうだった?」

「四十点は下回ってない! すーがくは六十点くらいかも!」

「なら、ギリ赤点は大丈夫っぽいな」



 苦手な現国でその点数なら、赤点は回避できるだろう。

 これは本格的に、夏の予定を立てないとな──ガラッ!



「センパイセンパイ! 海斗センパーイ!」

「パイセン、自己採点手伝ってー!」



 突然の清坂さんと天内さんの登場に、教室内はザワついた。

 けど悠大とソーニャは俺らの関係を知ってるから、特に騒いでいない。



「むっ。来たね、いちねんせーコンビ!」

「むむっ。ツキクラ先輩!」

「ツキクラパイセン……!」



 まあ騒がない代わりに、めっちゃ険悪なムードだけど。

 険悪なムードと言っても、ソーニャは荒ぶる鷹のポーズ。清坂さんと天内さんはファイティングポーズで向かい合ってるから、なんかほっこりするんだけど。



「今ヨッシーは私らと自己採点してんの。こーはい帰りなさい」

「私らだってパイセンに今すぐ採点して欲しいし」

「そーだそーだー!」



 変なポーズの応酬にほんわかした空気が流れる。

 悠大もめちゃめちゃ写真撮ってるし。おい悠大、その写真俺にも寄越せ。



「ヨッシーも人が多くなったらめーわくでしょ」

「ならツキクラ先輩が帰っていいっすよ。もう終わったっすよね?」

「むむむ」

「ぐむむ」



 なんかここだけ美少女の割合が高いなぁ。眼福眼福。

 てかそろそろ他の人に迷惑だからやめなさい。



「俺は別に迷惑じゃないからさ。採点の手伝いだっけ? いいよ、ここじゃ迷惑になるから、移動しようか」

「やったー!」

「パイセンさっすがー!」



 悠大にソーニャ。それに清坂さんと天内さんを連れて、教室から移動する。

 テスト期間中は図書室も閉鎖されているから、場所は俺の家だ。

 全員で部屋に上がると、机の上に二人の問題用紙を出させた。

 問題ごとにちゃんと自分の解答を写してるな。よしよし。

 ざっと確認してマルとバツを付けていく。

 マル、マル、マル、マル、バツ、マル、バツ、マル……おお、意外といいんじゃないか?



「ふふん。因みに私はもう赤点回避出来たわよ。キヨサカさんとアマナイさんはどうかしらね~?」

「う。せ、センパイ……!」

「ぱ、パイセン。ちょっとおまけでマルとか……」

「いや、テストにおまけも何もないから」

「「しょんなぁ~」」



 残念だけど、これは実力の世界だからな。

 でもソーニャ。お前後輩に点数でマウント取ってるけど、嬉しいか?



「嬉しーわ!」



 さいで。

 時間にして一時間ちょっと。ようやく三教科分の採点が終わった。



「はい、採点出来たよ」

「ごくり。な、なんだか判決を言い渡される犯人の気分です」

「だだだ、大丈夫。あんなに勉強頑張ったんだもん……!」



 二人は緊張した顔で手を組んで祈っている。

 今神頼みしてももう遅いけど……まあ、二人からしたらシュレーディンガーの猫状態なのかもな。



「はい、二人とも」

「「は、はいっ」」



 裏返して二人に渡すと、相当緊張してるのかガチガチで受け取った。



「て、テストの返却でこんなに緊張するの、初めてだよ」

「わ、私も。それじゃあ深冬。……せーの!」



 数学A

 清坂さん:57点

 天内さん:69点


 現国

 清坂さん:70点

 天内さん:62点


 英語

 清坂さん:68点

 天内さん:72点



「「「…………え?」」」



 清坂さん、天内さん、ソーニャの目が見開かれる。

 そりゃそうだ。俺もちょっとびっくりしたもん。



「当然、ざっと見ただけだから、点数が前後するかもしれないけど。でも大方それくらいの点数だと思うよ」

「う、うそ……そんな……」



 さっきまでのドヤ顔はどこへやら。

 まあ、点数だけみれば二人の方が高いからな。って、だから一年生と張り合うなよ。



「どう? 頑張って勉強して出た成果は?」

「「…………ふぇ……ぅぇぇ~ん……」」



 泣いた!?



「よ、よがっだぁ~……よがっだよぉ~」

「いっばいがんばっだがら、うれじぃ~……!」



 お、おう。ここまで号泣するとは思わなかった……。

 まあ、本当に頑張ってたもんな、二人とも。

 二人の頭をそっと撫でると、余計びーびー泣いちゃった。まだテスト初日なんだけどなぁ……でもこの調子なら、他のテストも大丈夫そうだ。


 頑張ったね、二人とも。






「海斗。なんだか二人のママみたい」

「ママ言うのやめろ」

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