第58話 ギャルたちと約束

 一週間のテスト期間が終わった。

 ここから土日を含めた月曜日と火曜日は、先生たちの採点期間になるから休み。

 つまり四連休になる。

 夏休みまではあと一週間。それなのに四連休を貰えるのが、鎧ヶ丘高校のいい所の一つだ。

 俺もこの期間は、バイトも休みにさせてもらってる。久々の四連休だからね。


 リビングでコーヒーを飲んで力を抜く。

 清坂さんと天内さんも、机に突っ伏してスライムと化している。



「テスト終わりましたねぇ〜」

「こんなに穏やかな気持ちでテストが終わったの、初めてだよ〜」

「お疲れ様、二人とも」



 本当、ここ一ヶ月半は頑張ってたもんね、二人は。

 今度労ってあげようかな。

 そんな二人を、ソーニャが白い目で見ていた。



「ふーん。よゆーね、二人は」

「まあ、パイセンが採点してくれて、赤点はほとんどありえないのが分かったから」

「思う存分夏は遊べるっすからね」



 最低点が57点だったんだ。平均点の半分が赤点の鎧ヶ丘高校では、半分以上の点数が取れたら自動的に赤点は回避になる。

 そりゃあ余裕も出てくるってもんだ。


 俺の隣で漫画を読んでいた悠大が、「まあ」と口を開いた。



「ソフィアはギリギリだったもんね、化学が」

「34点だもんなぁ。下手すると赤点だ」

「うぐっ」



 現実を突きつけられ、うろたえるソーニャ。

 確かに今回の化学は難しかった。俺も90点には届かなかったし。

 だから平均点もそれなりに下がるとは思うが……。



「まあ、大丈夫でしょ。僕の見立てだと赤点は25点以下と見た」

「俺もそのくらいだと思う。心配すんな」

「うぅ……二人ともやさしー……」



 ソーニャは慰められてちょっと元気が出たのか、ふんっと気合を入れた。



「過ぎたことはしょーがない! もし赤点でも三日間だけだし! それよりヨッシー、約束覚えてるよね!?」

「ん? ああ、一緒に遊びに行くってやつか」

「そう、それ! 実は一緒に行く場所決めててねー」



 ソーニャが嬉しそうにスマホをいじって、俺に見せてくる。

 へぇ、新しく出来たアクアミュージアムか。プロジェクションマッピングと七色の光の幻想的な空間……面白そうだな。



「じゃあ明日行くか」

「うん!」



 俺との外出が嬉しいのか、ソーニャはニコニコで首を縦に振った。

 俺もソーニャと二人の外出は久々だな。

 ……ソーニャの気持ちを知った今だから思うけど、これってデートなんじゃ。

 あ、やば。意識したら恥ずかしくなってきた。



「ちょ、ちょっと待った!」



 と、天内さんがスライムから復活して身を乗り出してきた。

 清坂さんも慌てて起き上がり、目を白黒させている。



「な、なんすか!? 二人で遊びに行くんすか!?」

「まあ、約束してたから……悪いけど、二人はお留守番ね」

「「しょんな……!」」



 いつも一緒にいる二人を留守番させるのは忍びないけど、こればっかりはな。

 ソーニャも楽しみにしてるし、ここで二人を連れていくのはソーニャに失礼だろうから。



「そーいうことよ。ふふんっ」

「「むぎぎっ……!」」



 ……この二人は、なんでこんなに悔しそうなんだろう。

 俺だけ楽しんで、留守番が嫌だとか? まさか、そんな子供じゃあるまいし。



「じゃ、じゃあパイセン! 私は明後日! 明後日どっか行こう!」

「あ、深冬ずるい! じゃあセンパイ、私は明明後日! 月曜日がいいです!」



 あ、やっぱりずるいって思ってたのか。

 体は成熟しても、中身は子供だなぁ。



「わかった、わかった。じゃあ当日までに、どこに行きたいか選んでおいてね」

「おっす!」

「わかりました!」



 そんなに出掛けたかったのか、すごく元気だ。

 テストのストレスもあっただろうからなぁ。遊びたくてしょうがないんだろう。

 子供のように喜ぶ二人を見ていると、悠大が俺の肩に手を置いた。



「なんだよ」

「〇ね」

「シンプルすぎる」



 そんなド直球なディス久々に聞いた。

 てか痛い痛い痛い。肩を掴む力強すぎるッ。

 手をタップすると、渋々離してくれた。おーいてぇ。



「まあ、あの海斗に春が来たのは喜ばしいことだけど」

「春って……ソーニャはともかく、あの二人はわからないだろ」

「本気で言ってる?」



 前にも言ったが、少なくとも嫌われてはないと思っている。

 でも俺のことを異性として見てたら、密着するのに抵抗があるはずだ。

 と、いうことは。



「二人は俺のことを異性として見てなくて、手を出さないと信頼出来るいい先輩、みたいな感じじゃないか?」

「……海斗がそう思うなら、それでいいよ」

「馬鹿にされた感が」

「大丈夫、気のせいじゃないよ」



 ……解せぬ。

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