第113話 先輩と青春の思い出
「ぅぅ……ぐすっ」
ようやく泣き止んだ花本さんだが、白百合さんの服を握って離さない。
まるで迷子になった子供みたいだ。
珍しくまだシラフの白百合さんが、困った感じで俺と花本さんを交互に見た。
「事情はわかりました。……智香に会ったみたいですね」
「ええ、まあ。本当に偶然ですけどね」
俺のバイト先の先輩と、純夏たちのバイト先の先輩が、実は喧嘩別れした友達とか……あんな超偶然、今後起こることはないだろう。
というか、二度と起こらないでほしい、こんなこと。
「そう……海斗君。申し訳ないですけど、今回の件は……」
「あ、大丈夫です。俺たちは何もしませんよ。今日は作りすぎた肉じゃがを持ってきただけです」
鍋をテーブルに乗せて蓋をとる。
美味そうな匂いが湯気と共に出て、鼻腔をくすぐった。
「さあ、熱いうちに食べてください」
「まあ、ありがとうございます、海斗君。カレン、いただきましょう」
「……ぅん。たべる……」
目を腫らした花本さんが、小動物のように肉じゃがを食べる。
どうやら気に入ったのか、橋が止まらない。ビールも進むみたいで、無言で食って飲んでを繰り返していた。
「俺が言うのもなんですが、あんまり気にしなくていいと思いますよ」
「ほらカレン。海斗君もこう言っていますよ」
「……わかってるょ、そんなの……」
うーん……わかってはなさそう。
まあさっき、大号泣してたもんな。花本さんだって仲直りしたいんだ。
それに、青座さんのあの反応……多分青座さんも、同じことを思ってるはず。
いろいろと拗れているけど、少しだけ切っ掛けを作ればいいはず。
あとは背中を押すだけだ。
「お2人って、同じ高校だったんですよね。どんなことしてたんですか?」
「唐突ですね」
「花本さんがここまで取り乱したのは初めて見ましたから。少し気になって」
これは本当のことだ。話は少しだけ聞いているけど、詳細までは知らないからな。
あとは野次馬根性ってことで。
「そうですね……普通に仲良かったですよ。10人ぐらいのグループで、女子が4人、男子が6人でした。毎日空き教室に集まって、たまに遊びに行ったり……まあ普通の高校生っぽいことですよ」
普通の高校生は、男女混合で10人のグループなんて作らないような。
絶対この人たち、トップカーストとか呼ばれてたでしょ。
……普通の高校生っぽい生活を送ってない俺が言うのもなんだけどさ。
「そうですね……この時期だと、夏祭りがよかったですね」
「夏祭り?」
「ほら、週末の」
「ああ、あれですか……」
て、もう2日後じゃん。
純夏への誕生日プレゼントもちゃんと用意しないと。
「あれこそ青春って感じでしたね。みんなではしゃいで、みんなで花火を見て……楽しかったです」
当時のことを思い出しているのか、白百合さんは遠くを見つめる。
いつの間にか花本さんも、箸を止めて俯いていた。
「そうですか……なら、今年は行かないんですか?」
「どうでしょう。毎年行ってますけど、今年は……」
心配そうな顔で、白百合さんが花本さんを見る。
こんなことがあったんだ。花本さん、今年は行かないのかもな。
それも仕方ない。あんなことがあったのに、当時の記憶を思い出す場所に行っても、素直に遊べるとは……。
が、花本さんは顔を上げた。
「……行くよ」
「え? でも……」
「これくらいのことで行かないと、それこそ負けを認めたみたいじゃん。正直あれ、私のせいじゃないし」
「それはそうですけど……大丈夫ですか?」
「大丈夫。問題ない」
花本さん、意外と頑固だからな……まあ本人が行くって決めたなら、俺たちがとやかく言うのは違うか。
その後、少しだけ2人と世間話をした俺は、自分の部屋に戻ってきた。
「「! おかえりなさい!」」
「た……ただいま」
び、びっくりした。玄関にいたのか、2人して。
「カイくん、大丈夫っすか? 変なことされてません?」
「大丈夫だよ。それより、花本さんと青座さんを仲直りさせる算段がついた。今から作戦を説明するから」
「「……へ?」」
ん? どうしたんだろう、そんな呆然としちゃって。
「も、もうっすか……?」
「いくらなんでも早すぎない……?」
「なんか、いろいろとタイミングがよくて。それじゃあ作戦を伝えるよ──」
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