第112話 先輩と号泣
◆
「というわけで、カイ君! 私らに協力してほしいっす!」
「ウチら、智香さんのためになんとかしたい!」
やっぱりそうなったか。
帰って来た純夏と天内さんが、夕飯を食べながら鼻息荒くずずいっと迫って来た。
この子たちならそう考えると思ったけど、まさかこんなに早く動くとは思わなかった。
正直は話をすれば、俺だって花本さんのためにどうにかしたい気持ちはある。
バイト先でもいつもお世話になってるし、私生活でも結構関りがあるから、このままじゃいけないのは間違いない。
あの時の花本さんの顔、辛そうだった、けど……。
「実は花本さんから、今回の件に関しては手を出すなって言われててさ」
「そんな……!」
「これが本当に花本さんと青座さんのためになるなら、俺も喜んで協力するよ。でも本人たちが変な感じで意識しあってるのに、無理に仲介するのはよくない」
本当は仲良くしたいんだろうけど、それを無理に会わせて、無理に仲良くさせるのは違う気がする。
お互いを心から許し合わないと、俺たちが何をしたところでまた疎遠になるのが落ちだろう。
そうなったら、次は絶対にない。二度と、チャンスは失われる。
「だから――」
「カイ君……」
……え?
ぽかんとしていると……純夏の目から、大粒の涙が零れ落ちた。
大声で泣くのを我慢するように唇を噛み、涙だけ流している。
「す、純夏……?」
「か、カイ君の気持ちは、わかるっす……で、でも、私……私の好きなカイ君はっ、こういうときにすごく頑張ってくれて、私のヒーローで……うぅぅ……」
「お、落ち着いて、純夏」
まさか泣くとは思わなかった。というか、純夏がこんなに泣くの初めて見たかも。
慌てて純夏の背中を摩ると、隣にいた天内さんが俺の服を引っ張った。
「海斗くん。海斗くんの気持ちはわかるよ。でも、ウチらだって大切な先輩を思ってるの。お願い、ウチを助けてくれたみたいに……」
「まっ、待って待って! 誰も助けないだなんて言ってないよっ」
「「……ふぇ?」」
焦った。まさか大号泣されるとは思ってなかった。
それだけ青座さんのことが心配なんだろう。
知ってたけど、2人ってすごく優しいんだよな。
「大丈夫。考えはあるから」
「「…………」」
「……あの。その納得いってないような顔は何かな?」
「お察しの通り、納得してません」
「海斗くん、ウチらが慌ててるのを見て楽しんでたんだ」
「人聞きが悪くない!?」
勝手に勘違いしたの2人だよね!?
「こほん。でも俺の気持ちは、さっき言った通り。この件に関しては、無闇に手を出すつもりはない。絶対に拗れるし、下手したら仲直りするチャンスが永久に失われる」
「ずびっ。じゃあどうするんすか? ちーんっ」
純夏が鼻をかんで、まだジト目で俺のことを見てくる。
勘違いさせたのは謝るから、ちょっとその目はやめてくれないかな……?
「さっきも言ったけど、考えはある。ただ、まだ情報が足りない。これから白百合さんの家に行って、話を聞いてくるよ」
「え、危ないっすよ。逆レされますって」
「そんなことされないからね?」
まだ酔った2人のことは信用されてないらしい。
まあ、酔っ払いを信用できないのは、おおむね賛成だけど。
「2人は待ってて。本当、すぐ戻るから」
「海斗くん、何かあったら大声で叫ぶんだよ? あ、防犯ブザー持ってく? ウチ、持ってるから」
「あ、私もあるっす! ナンパされたときに、何かと便利なので!」
「き、気持ちだけ受け取っときます……」
こんな住宅街で防犯ブザー鳴らしたら、それこそ警察来ちゃう。
しかも酔っ払い女性2人にシラフの俺1人だと、間違いなく俺が捕まっちゃう。
2人に心配かけないよう、早く終わらせよう……。
安心させるように2人の頭を撫で、夕飯のあまりである肉じゃがを用意し、白百合さんの部屋へ向かった。
「仲直りできるもんなら私だってしてーよぉー!! えーーーーん!!」
「おー、よしよし。今は私の胸で泣きなさい」
あ、思ったより早く仲直りさせられるかも。
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