第44話 ギャルたちとお風呂

 ……どうしてこうなった。

 俺は風呂場の中で一人、パンツ姿で立ち尽くしていた。

 何故パンツ姿か? 当たり前でしょ。これから女の子が入ってくるとわかってて、ノーパンなわけがない。


 まあ、二人も花も恥じらう女子高生だ。濡れてもいい服に着替えてくるだろう。

 念の為に腰にタオルを巻くと、脱衣所の扉が開いて二人が入ってきた音が聞こえた。



「センパイ、いるっすかー?」

「あ、うん。いるよ」

「それじゃ、風邪引かないうちに私らも入りますねー」

「わ、わかった」



 やばい。いくらなんでもこの状況はやばい。

 なんか物凄く緊張してきた。清坂さんと天内さんは服を着て入るとは言え、これはまずい。


 家で美少女ギャルに背中を流してもらう。

 なんだこれ。前世の俺はどんな徳を積んできたんだ。


 すると──ぷち、ぷち。しゅる……とすっ。

 ん? なんの……って!?


 磨りガラスの向こうにいる二人。

 の、肌色面積が徐々に増えてるような!?

 い、いやいやいや。そんなわけない。あれだ、すぐそこで着替えてるだけだ。そうに違いない。


 そう、慌てる必要はない。でも煩悩は退散してもらいたい。

 煩悩退散。煩悩退散。煩悩退散。


 ガチャッ──!



「センパイ、お待たせしました!」

「現役JKギャルが、背中を流しに来たよ」

「あ、うん。お願……い″っ!?」



 ちょ、えっ、ええ!?



「なななっ、なんで服着てないの!?」

「? 着てますよ?」

「水着をね!?」



 そう、水着だ。

 全裸ではないが、限りなく全裸に近い。

 どうして女性は、下着姿は見せたくなくて水着姿は見られてもいいというのか。


 天内さんは黒のホルターネックビキニ。

 全体的に布面積が小さく、胸元や腰の紐が編み込まれている。そのせいでかなり扇情的だ。


 清坂さんは水色の眼帯ビキニ。

 布面積はやや多いけど、トップが四角い布で覆われてるだけで上下左右どこからでも乳房が丸見え。


 やばい。やばい。やばい。

 頭がやばいしか出てこない。やばい。

 なんで俺の部屋の風呂場に、現役JKギャルが水着を着て入ってるんだ?



「そんじゃーパイセン、座って座ってっ」

「私が前洗うんで、任せてくださいっす!」



 呆然としていると、天内さんが俺の肩を掴んで椅子に座らせた。

 体勢が低いから、目の前に清坂さんの下乳とヘソがよく見えてしまう。

 というか本当、綺麗な体だ。薄ら腹筋も縦に割れてるし、ヘソも縦長。括れと腰周りの肉付きはとても女子高生とは思えない。



「それじゃ、洗っていくっすよー」

「まずは頭からね。パイセン、目つぶっててねー」

「は、はひっ……!」

「ふふ、緊張しすぎだよー」



 緊張するわ!

 清坂さんが適温になったシャワーを頭から掛ける。

 目に水が入らないように少し前傾姿勢になる。

 が、それがまたいけなかった。

 シャワーの水を弾く、瑞々しくかぶりつきたくなるような太もも。布面積の少ないボトム。


 目を閉じ、その情報を遮断した。

 が、視覚情報がなくなり、別の感覚が鋭敏になった。



「シャンプーしますねー」

「痒いところがあったら言うんだよ、パイセン」



 浴室の反響で、まるで耳元で囁かれているような感じ。

 泡立てたシャンプーを髪に乗せ、四つの手がわしゃわしゃと優しく洗う感覚。

 目を開けると視覚的に毒で、目を閉じると聴覚と皮膚感覚が鋭敏になる。


 こんなの、どっちに転んでも天国ですありがとうございます。



「シャンプー落としますよー」



 清坂さんが再びシャワーを頭から掛け、シャンプーを落とした。


 美容室じゃなく、プライベートで女の子に頭を洗われるなんて稀だ。

 しかもそれが二人。頭が弾け飛びそう。



「ねーねー、知ってるっすか? 一緒にお風呂入る友達を、オフレって言うらしいっすよ」

「へー。じゃー私らオフレじゃん。やば、ソフレとハフレの次オフレって、パイセン極まってるね」



 二人の声が遠くに聞こえる。

 頭がぼーっとして、色んな所の血流が暴走しそう。

 あれ、おかしいな。視界がボヤけて……。



「ん? センパイ? どうしたんすか、センパ……イ!? ちょっ、センパイ鼻血! 鼻血出てるっすよぉ!?」

「え!? ぎゃーーー!? たたたっ、大変!」



 そんな慌てる二人の声が徐々に遠ざかり、俺の意識は暗闇に落ちていった。



   ◆純夏side◆



「……私って、お世話する才能ないのかな……」



 なんとか鼻血を止めた私たちは、センパイを急いでお風呂場から出してベッドに寝かせた。

 念の為に冷えピッタンをおでこに貼り、気絶しているセンパイの手を握る。


 センパイ、私たちのせいで……うぅ。泣いちゃう。



「ま、まあ、今回は悪ノリが過ぎたというか、急ぎすぎたね」

「うぅ。嫌われちゃったらどうしよう……」



 もしセンパイに嫌われちゃったら、私……。



「だ、大丈夫だって! パイセンもそれくらいじゃ、純夏のこと嫌いにならないよ!」

「でも私、センパイに迷惑かけてばかりだよ……? 傍にいて支えてあげたいのに、これじゃあ無理だよ……」

「確かに、勉強も料理も寝床も、全部パイセンに頼りっきりだけど……ふむ?」



 深冬が腕を組んで何かを考えている。



「あ、そうだ」

「何か名案が!?」

「うん、私に任せてよ。絶対大丈夫だから」



 ……どうしよう、不安になってきた。

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