第55話 ギャルの攻めと突然の通話

「はー……お腹いっぱいだ」



 今日の夕飯はハヤシライスだった。

 玉ねぎと牛肉が安かったみたいで、沢山作ってくれた。明日の弁当は、ハヤシライスかな。

 清坂さんと天内さんも満足したみたいで、今は身を寄せあってスマホをいじっている。


 なんとなく二人をじっと見ていると、天内さんが俺の視線に気付いてこっちを見た。



「んー? なんだなんだー? パイセン、お腹いっぱいになって人肌が恋しくなったかー?」

「そ、そういう訳じゃ……」

「照れるな照れるなって。それじゃー、深冬ちゃんと純夏ちゃんが人肌恋しいパイセンをぎゅーしてやろう」



 天内さん、笑顔が怖いんですが。

 清坂さんも、なんかすごい笑顔で手をわきわきさせてるし。

 ソファーに座る俺の左右に二人は座ると、ぎゅっと腕を抱き締めてきた。

 なんか……普通だな。

 いや普通じゃないよ。普通は美少女女子高生二人に左右から抱き締められるなんて機会はないんだよ。感覚バグってんな俺。



「センパイ、『これだけ?』って思いませんでした?」

「え? いやー……」

「流石純夏。パイセンのことよくわかってるね」

「ずっと一緒にいるから、なんとなく考えがわかってきたんだよね」



 思ってたのは本当だから、なんか恥ずか悔しい。

 なんとなく気まずくて無言を貫いてると、二人がいたずらっ子のような笑みを浮かべた。



「大丈夫っすよ、これだけじゃないですから」

「今日は少しだけ毛色を変えるからね」



 二人は俺の肩に手を掛け、ぐっと耳元に近寄ると──。



「センパーイ」

「パーイセン」

「ひっ……!?」



 耳元で囁かれて……!?

 背筋がぞわぞわして大変なことに……! と、とにかく逃げなきゃ、こんなの身が持たないぞっ。

 急いで二人から離れようとする。けど……え、がっちり腕を拘束されて動かないんだが!?



「ま、待って二人とも、これは……!」

「待ちませーん」

「今日一日、純夏を離さなかったバツでーす。しばらくは耳責めするから、覚悟しなね」

「「ふー♪」」

「〜〜〜〜ッ!?!?」



 こ、これ、ASMRだ……!

 耳を心地いい音や声で攻め立てる音声。

 俺もよく聞くけど……これは、今まで聞いたASMRと比べても段違いで心地いい。

 いや、心地よすぎて脳が痺れる。

 感覚が麻痺して、力が抜けていくような感覚になる。

 なんだこの中毒性っ、ヤバすぎるだろ……!


 なんとか逃げ出そうともぞもぞするが、それでも離してくれない。



「センパイ、私を見て」

「だめ。パイセン、こっち見て」

「私だけを見てください」

「私を見てくれたらご褒美上げる」

「膝枕されたくないです?」

「おっぱい枕でおねんねしようね?」

「センパイ」

「パイセン」

「センパイ♪」

「パーイセン♪」



 二人の透き通る声がずっと囁かれて、脳がバグってくる。

 どうすればいいかわからず硬直していると、今度は清坂さんが右もも、天内さんが左ももに座った。



「さあパイセン。ここからが本場だよ」

「センパイ、覚悟してくださいね」



 えっ……ちょ、待っ……にゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?






「ふぅ。やりきったー」

「これ楽しかったね。またやりたい」

「…………(びくっ、びくっ)」



 も、無理ぽ。まさかこんな攻めをされるとは思わなかった……。

 体から力が抜けてるし、まだ二人が俺の左右にくっついてて動こうにも動けない。



「センパイ、どうでした? よかったですか?」

「……知らない」



 あんな風に攻めてくる二人なんかもう知らないし。ふんっ。



「あら、センパイ拗ねちゃいました」

「まーまー。あれだけヨガってたら、拗ねちゃうのも無理はないって」



 ぐっ……否定出来ない。

 というか二人にあんな才能があるとは思わなかった。攻めの才能というか、サドの才能というか。


 気持ちを落ち着かせるために深呼吸を数回する。

 と、急に誰かのスマホが鳴った。この音、電話だ。



「ん? 深冬?」

「私じゃないよ。純夏じゃないってことは……」



 二人が俺を見る。

 え、俺のスマホか?

 滅多に電話がかかってくることなんてないから、全然気付かなかった。

 こんな時間に誰から……って、ソーニャ……?



「あ。ご、ごめん。ちょっと電話出るね」



 なんとか足腰に力を入れ、寝室に入ってスマホを操作する。



「もしもし?」

『あ、もしもーし。ヨッシー、やっほー』

「やっほーって……どうしたんだよ、こんな時間に」

『ん? んー……ヨッシーの声が聞きたくなっちゃってね♪』



 何可愛いこと言ってんだ。ソーニャの癖に。



「って、なんか声が反響してない? 今どこにいるんだ?」

『どこだと思う?』

「あー……トンネル?」

『なんでこんな夜中にトンネルにいないといけないのよ……』



 いや、ソーニャならありえるかなって。



『正解はね〜……画面を見ればわかるわよ』

「画面?」



 写真でも送って……。



「ぶっ!?」

『あはは! 変な顔ー』



 変な顔にもなるわ!

 だって、これビデオ通話の上に……!



「風呂場じゃん……!」

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