第78話 やばい空間から脱出

 清楚ギャルと言えばいいのか。

 学校では委員長系だけど、放課後遊ぶ時に着崩す系って感じだ。

 スカートをヒラヒラさせている白百合さんから目を逸らすと、今度は花本さんに目が吸い寄せられる。

 まだ恥じらいは残っているが、癖なのかあぐらを組んで酒を飲んでいた。

 今にもスカートの奥が見えそうだし、火照った首筋や鎖骨も色気が凄い。

 何となく居心地が悪くなり、そっと目を逸らす。

 と、純夏と天内さんがもぞもぞと動き出した。



「んにゅ……うるさぃでしゅ……」

「まだねむいー……」

「あ。純夏ちゃん、深冬ちゃん。おはようございます」



 目をしぱしぱさせている二人に、白百合さんが笑いかける。

 眠そうにぼーっとしている二人だったが、白百合さんと花本さんを見て一気に目が開いた。



「えっ、ちょっ! 二人とも可愛すぎですけど!?」

「何それせーふくコス!? うはっ、ビール片手にせーふくとか背徳感やばいね!」



 天内さんの言う通りだ。でもね、天内さん。



「コ……ス……だと……!?」

「れ、冷静に考えれば、確かにそうですが……」



 現実を大きな声で突きつけないであげて。

 二人とも心に矢が刺さってるから。



「えー。でも似合ってるしよくない? あっ、そうだ! 私らもせーふく着ようよ!」

「いーね、深冬! てか制服あんの?」

「実は持って来てたんだよねぇ」

「なるほど」



 何がなるほどなの?

 二人は寝室に戻ると、ゴソゴソどたばたと着替え出し、ものの数分で戻ってきた。

 いつも通りの制服姿。流石ベテランギャル。貫禄が違う。



「いえーい! 現役JKギャルっすよ、セーンパイ♡」

「どうどう海斗君、JKの生足は♪」



 二人が俺の目の前で横目ピースやらあごピースをしている。

 うーん……。



「いつも通り」

「「ウケる」」



 俺の答えが面白かったのか、二人とも大笑いだ。二人の制服姿とかめちゃめちゃ見慣れてるからなぁ。

 純夏と天内さんは寝起きなのにも関わらず、テンション高く白百合さんと花本さんの元へ向かう。どうやら匂い酔いはまだ健在のようだ。



「ほらほら白百合せんぱいっ、一緒に写真撮ろ!」

「カレンたんも一緒にー!」

「いえーい、ぴーすぴーすー!」

「白百合、お前そんなテンションにもなれんだな……」



 四人がくんずほぐれつの自撮り写真を撮っている。

 美女四人がキャッキャしてる姿は絵になるなぁ。



「じゃーこれ、SNSに上げるねー」

「「「いいよー」」」

「待った!!!!」

「「「「ひぇっ」」」」



 俺の静止の声に、四人は身を竦めて寄り添った。

 いや、ごめんて。だからそんな涙目で見てこないで。



「あのね、皆は今制服姿なの。いつもならいいけど、白百合さんと花本さんはお酒を片手に持ってるの。そんな写真をSNSに上げたら、完全に炎上するぞ」

「た、確かに……」

「正論すぎる」

「酔った勢いとはいえ、私はなんてことを……」

「吉永、ごめん……」



 俺のお説教に、今度はシュンとしてしまった。

 わかってくれればいい。でもここまで落ち込まれると、逆に罪悪感が。



「純粋に、酒を全部片付けて写真撮ればいいのでは?」

「「「「それだ!」」」」



 四人はせっせと酒瓶や空き缶を片付けると、荷物をどかして撮影会をおっぱじめた。

 花本さん、さっきまで乗り気じゃなかったのに、今は寧ろノリノリだ。



「いや、やるからには徹底してやった方が得だろうなと」

「何に対しての得なのかはわからないですが、なるほど」



 まあ花本さんの気持ちもわかる。

 二十代を超えて制服なんて着る機会ないし、こんな風にノリノリになることも少ないだろう。

 二人で自撮りしたり、ちょっと際どい系のポーズを撮る四人を見ながらちびちびジュースを飲む。

 うーん……冷静に考えてみると、この空間やばいな。

 まず匂いがやばい。酒とツマミ、それに加え美女四人の匂いが上手い具合に混ざっている。

 それに加えて、四人のポーズがやばい。悪ノリでボタンをめっちゃ開けてるし、スカートも短い。

 なんというか……蠱惑的と言うのだろうか。

 男一人でこんな場所にいるのがおかしいほど、淫靡な空間になっている。

 いや、実際はただ写真を撮りあってるだけなんだけどさ。

 でもこれはやばい。頭を冷まさないと。

 皆にバレないように、そろりと部屋を出る。あとはサンダルを履いて外に……。



「あれー? 海斗くん、どこ行くんですかー?」



 げっ。白百合さん酔っ払いに捕捉された……!



「い、いや、ちょっと散歩に……」

「酔っ払いの相手をせずに散歩とは何事じゃーい」

「「「じゃーい」」」



 この酔っ払いどもめ……!

 って、純夏と天内さんは悪ノリするんじゃありませんっ。



「と、とにかく、直ぐ帰ってくるんで!」

「あ、ちょっ……!」



 四人を振り切るようにしてサンダルを履き、急いで外に飛び出した。

 はぁ……まずは頭を冷やさなきゃな。

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