第77話 酔っ払いと悪ノリ

   ◆



「しゅみませんでした……」



 1時間後。ようやく起きた白百合さんは酔いが冷めたのか、羞恥心で顔を真っ赤にして項垂れていた。

 白百合さんは、どれだけ酔ってても記憶は残っているらしい。

 あれだけの醜態を晒し、更に起きたら目の前に俺の顔があったら、こんな顔にもなるか。



「俺は気にしてないんで。白百合さんも気にしないでください」

「……なんか腹が立ちますね」

「なんでだよ」



 折角人が気を使ったのに。

 白百合さんは三角座りでむすーっとした顔を見せる。拗ねてるというか、抗議してる感じだ。



「ふーんだ。どうせ私なんて、純夏ちゃんや深冬ちゃんみたいに可愛くないですよー。飲んだくれの酒カス野郎ですよー」

「卑下しすぎ卑下しすぎ」



 誰もそこまで言っていない。思ってはいるが。



「白百合さんも可愛いですよ。間違いなく」

「……本当に?」

「はい。ただまあ、俺の場合は状況が状況なんで」



 もし日頃から純夏や天内さんとくっ付いてなかったら、俺だって動揺する。常人より美女に耐性があるってことだ。

 ……誇ることなのかわからんが。

 俺の視線が純夏と天内さんに向かったのを察したのか、白百合さんと花本さんが「あー」といった顔になる。



「確かに二人と普段からいちゃこらしてたら、白百合の抱きつき程度じゃ今更どぎまぎしないか」

「言い方にトゲがありますが、概ねその通りです」



 だから白百合さんも、そこまで気に病まないでほしい。

 そんな意味で白百合さんを慰めたのだが。



「……やっぱり腹立って来ました」

「奇遇だな、私もだ」

「だからなんでだよ」



 何故ここで腹が立つんだ。意味がわからないぞ。

 女心と秋の空とは言うけど、秋の空以上にわからない。わからなさすぎる。



「あーあ、私も女子高生になりたいです。そうしたら……」

「……え、なんですか? なんで俺見るの?」

「ふん」



 今度はそっぽ向かれた。解せぬ。

 すると、白百合さんが何かを思い出したのか、腕を組んで思案している。

 何を考えてるのかはわからないが、なんか嫌な予感。



「……カレンちゃん、来てください」

「え、何? くだらない話なら聞かないけど」

「全然くだらなくないので、いいからっ」

「えぇ、めんどーくせー」



 白百合さんが何故か花本さんを連れて部屋を出る。

 音からして、自分の部屋に戻ったみたいだ。

 と、急に隣の部屋が騒がしくなった。一体何をしてるんだろう。



『ちょっ!? 白百合何すんの!?』

『いいから脱いでください! 全部! 下着姿になって!』

『いやいやいや私ノンケだからな!? こんなこと嫌なんだが!』



 本当に何をしてるの!?

 2人が何をしているのかをつい想像してしまい、顔が熱くなる。

 そんな状況でも純夏と天内さんは熟睡だし。どんな顔してここにいればいいのかわからないよ。

 恥ずかしさを紛らわせるように、その辺のコップに入っていたジュースでアヒージョを流し込む。

 まだ隣の部屋からは、2人が何かを言い争っている声が聞こえてくる。



『私だってノンケですよ! でも必要なことなんです! ほら、これ!』

『……え、これ……服……』

『そう……す。これを着……こうせ……仲間……』

『なんで私のまで……だよっ……!』

『卒ぎょ……とっとい……』



 ……いきなり声が小さくなったな。本当、何をしてるんだろう。

 そのまま待つことしばし。不意に俺の部屋の扉が開いて2つの足音が聞こえた。



「海斗くん、お待たせー!」

「お待たせって、待つように言われてな……いっ!?」



 振り向いて驚いた。いや、驚くなという方が無理だろう。

 だって、これ……え、これまさか……!?



「せ……制服、ですか……!?」

「その通り! 高校の制服です!」

「うぅ。なんで私まで……」



 白百合さんと花本さんが、がっつり制服姿で戻ってきたのだ。

 胸元を緩めたワイシャツに、折ったスカート。

 2人とも20歳を超えてるのに、普通に女子高生に見えるくらい似合ってる。似合いすぎている。

 ただ花本さんは恥ずかしいのか、ずっとスカートを手で抑えていた。

 そりゃそうだ。花本さん、ずっとジャージ姿だし、スカートなんて履いてるところを見たことがない。

 新鮮で、可愛い。ドキドキする。



「いやー、こんなこともあろうかと、制服を取っておいて正解でした。カレンちゃんの制服と一緒に」

「くぅっ、捨てたはずなのに……!」

「拾っときました」

「それ犯罪だからな!?」



 ド正論すぎる。捨てたものを拾うのは犯罪だ。

 でも着てあげるあたり、花本さんも優しすぎる。



「どうです? 可愛いですかー?」

「あ、あんま見んな、ばか」



 可愛くポーズを決めている白百合さんに、恥ずかしがる花本さん。

 純夏、天内さん、ソーニャに負けずとも劣らないほどの可愛さだ。



「そ、そうです、ね……」

「ですよね! ふふ、褒められましたー!」

「ま、まあ、褒められて悪くはないな……えへへ」



 あ、ダメだこの2人酔っ払いだった。

 今もナチュラルにビール飲んでるし。制服姿でビールとか、マジで背徳感が凄いな。



「……って、白百合さんってそんな風に制服着るんですね。ちょっと意外です」

「いえいえ。私もこうやって着るのは初めてですよ、優等生でしたので。でもさっきカレンに教えてもらったんです。こうやって着るのもいいですね〜」



 スカートをひらひら捲るな。見える。見えるから。

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