第76話 隣人と本音

 買い物を終えて帰宅。

 そういえば、純夏って酒の匂いで酔ってたな……一応換気はして出たけど、大丈夫だろうか。



「ただいまー。純夏、天内さん。大丈夫かー?」

「あー、かいとくんおかーりー」



 部屋に入ると真っ先に白百合さんが絡んできた。

 換気されてるから、酒の匂いは強くない。けど白百合さん酒クセェ。


 抱き着いて来ようとする白百合さんの頭を押さえて止め、室内に押し返す。

 と、ソファーの上で純夏と天内さんが抱き合うようにして爆睡していた。

 若干頬が赤く見えるが……。



「白百合さん、あんた……」

「な、なんですかその疑いの目は。私なんもしてないですー。してないもーん。二人が勝手に寝ちゃっただけですー」



 ぷいっとそっぽを向く白百合さん。

 まあ、この人はどれだけ酔ってても未成年に酒を勧めることはしない。それはよくわかってる。

 ということは、単純に匂いでやられたか、間違えて飲んじゃったんだろう。多分。



「ったく……白百合さん。未成年のいる場所で飲んでるんですから、次からは酒の管理はしっかりしてください」

「んぇー。もっと中に飲みたいでちゅ」

「出来なかったら出禁の上俺もツマミは作らないので」

「ちょっ、それはご勘弁……! うぅ、わかりましたよぅ」



 涙目になりながらも、反省もせずチビチビ酒を飲む。

 本人が楽しむならいいけど、未成年を巻き込むのはやめてほしいものだ。

 二人も、もう少し危機意識を持って欲しい。寝ててもマジで絶世の美女なんだから。

 ため息をつき、二人に毛布を掛けてやってキッチンに立つ。

 せっかくアヒージョの具材を買ってきたし、美味しく作ってあげるか。


 鍋にオリーブオイル、ニンニク、鷹の爪を入れて弱火にかける。

 いい感じにオリーブオイルに香りが移ったら、むきエビとマッシュルーム、ブロッコリー、塩を混ぜて完成。

 超お手軽アヒージョだ。



「はい。ご所望のアヒージョですよ」

「えー、ラスクの気分なんですけどー」

「あんたがアヒージョがいいって言ったんやろがい」



 ついカチンと来てしまいエセ関西弁が出てしまった。

 でも許して欲しい。そして理解して欲しい。



「やですね、じょーだんですよぅ。はむっ。んーっ、うまーっ」



 ……まあ、美味そうに食ってくれてるし、別にいいか。

 それにしても、本当にお見合いするのかな、この人。全然そういう風に見えないけど。

 なんとなく、心の中がモヤモヤする。

 俺も自分用に作ったアヒージョを食べつつ、ジュースを流し込む。

 これが酒だったら、さっきの話も忘れられるだろうか。


 白ワインを飲み、深々と息を吐く白百合さんを見る。

 まあ、他人の家のことだし、俺が口出しすることはないけど。

 でも、好きでもない人と結婚だなんて白百合さんも我慢できるんだろうか。






「あー、お見合いしたくねーです」

「言っちゃったよこの人」






 花本さんとの約束で黙ってたのに、何サラッと暴露してんだ。



「えー? どうせカレンちゃんから聞いたんですよね。だっていつも面倒くさがりのカレンちゃんが、ついて行くなんて言ったんですからー」



 ぐっ。酔っ払いのくせに鋭い……。

 花本さんもがっつり目を逸らしてるし。



「……なら断ればいいのでは? お見合いって、受けるかどうかも選べるんですよね?」

「まーねー。でも、のっぴきならない事情ってのがあるんですよ。家のこともあるし」



 家のこと? ……あ、そういえば白百合さんの家って、金持ちなんだっけ。

 家が由緒正しいと大変だな。



「とにかく、お見合いは受けるしかないんですよ」

「白百合さんはそれでいいんですか?」

「よくはないです。私だって、出来ることなら好きな人と結婚してチューして〇〇〇〇して子供を五人くらい産みたいです」



 具体的すぎる上に下ネタがどストレートでエグい。



「でもまあ、これが黒森として生まれた者の宿命ってことですね。人生そんなもんっすわ」

「一度きりの人生を諦めるって、年齢的に早すぎません?」

「ぬはは。しょーねんは若いなぁ〜」

「ほとんど同年代でしょうが」



 って、肩組まないでください。酒くせぇ。

 白百合さんの頭を鷲掴みにして離しにかかる。

 が。



「……しゅぴぃ……」



 寝やがった、こんな所で。しかも組んだ肩を離そうともしないし。

 全身を預けてきて、まるで俺を抱き枕にしてやがる。



「あーあ、潰れたか」

「見てないで助けてください」

「別にいいだろ。たまには甘えさせてやれ」

「なんで俺が……」

「なんでだろうな」



 俺が聞きたいんですが。

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