第4話 ギャルとメッセージ

   ◆



「清坂純夏? もちろん知ってるよ。有名人じゃないか」

「……マジ?」



 教室について、親友の鬼頭悠大きとうゆうだいに清坂さんのことを聞くと、爽やかな笑みと共に答えが返ってきた。


 どうやら清坂さんは、一年の中で既にカーストトップに君臨する、超の付く勝ち組らしい。

 常人離れした美貌に、綺麗な空色の瞳。

 誰とでも分け隔てなく接するから、一年生は愚か二年や三年にもファンは多いんだとか。


 マジか、全く知らなかった。



「それにしても、どうしたの? 清坂さんのこと、気になっちゃった?」

「あー……いや、そういう訳じゃないんだ」



 気にならないと言えば嘘になるけど、踏み込む気もない。



「ふーん。なんだ、海斗にも春が来たと思ったのに」

「おい。俺は別に冬を謳歌してる訳じゃないぞ。雪解けを待ってんだ」

「はいはい。でも清坂さんはやめた方がいいよ。一年から三年まで、ライバルは多いからね」

「だから違うって」



 ニヤニヤ顔の悠大の頭を叩き、自分の椅子に座る。

 と──ん? スマホが鳴って……は?



 純夏:海斗センパイ! 夕飯はステーキがいいっす! もちろんお金は払いますんで!



 え、清坂さんからメッセージって……え?



 海斗:清坂さん、まず聞いていい?

 純夏:あ、そうでした。好みの焼き加減はミディアムレアです!

 海斗:別に好みを聞きたいわけじゃない。そうじゃなくて、なんで俺の連絡先知ってるの?

 純夏:ダメですよセンパイ、スマホはちゃんとロック掛けなきゃ! 変な人に見られたらどうするんですか?

 海斗:自己紹介どうもありがとう。



 これからはちゃんとロック掛けよ。



 純夏:まあ、センパイがコーヒーを淹れてくれてる間にちょちょいと。……怒りました?



 はぁ……全く、この子は。



 海斗:怒ってないよ。夕飯はステーキね。

 純夏:はい! 今日の夜に、近所のスーパーで特売があるそうなので!

 純夏:(スーパー特売のスクショ)



 お、確かに安い。肉だけじゃない、野菜も安くなってる。

 特売の時間は……授業が終わって走れば間に合うか。



 海斗:ありがとう、助かったよ。

 純夏:いえいえ! 海斗センパイのお役に立ててよかったです!



 最後に清坂さんから照れてるスタンプを受け、スマホをカバンにしまった。


 いい子……だよなぁ、清坂さんって。

 まあほんの少ししか絡んでないから、本当の清坂さんとかはわからないけど。



「海斗、ニヤニヤしてるよ?」

「してない」

「してるって」

「しつこい。もぐぞ」

「何を!?」



   ◆



 夕飯の食材を確保し、無事に清坂さんと夕飯を食べ終えた。



「ぷはーっ。ご馳走様でしたっす! 美味しかったです!」

「そう言ってくれて何よりだ」



 まあ、今日は肉を焼いただけなんたけど。


 汚れた皿を洗うと、いつの間にか隣に立っていた清坂さんが皿を拭いてくれた。



「ありがとう」

「居候させてもらってますんで、これくらい大丈夫っす」

「……そういや、着替えとか諸々は大丈夫なの?」

「はい。昼間のうちに家から持ってきたっす」

「え、学校は?」

「サボタージュ!」

「サボるな」



 横目ピースでウインクされた。

 如何にもギャルっぽい。ちょっとドキッとしたけど。

 てか学校まで一緒だったのに、あれから学校抜け出したんかい。



「海斗センパイも、学校はサボらない方がいいと思いますか?」

「え? ……あー、そう言われるとどうだろう」



 俺は一人暮らしさせてもらう条件があるから、サボらずに学校も勉強も頑張ってるけど……。



「たまになら、サボってもいいんじゃないか?」

「……いいんですか?」

「たまには一人になりたい時もあるだろ。人生の全てが面倒になる時とか。まあ普段からサボりはダメだけど、たまにならな」

「……そっすか」



 え、あれ? なんか静かになっちゃった?


 お互いに無言のまま皿を洗い終える。

 と、清坂さんが小さく欠伸をした。

 まだ21時だけど、疲れが出たのかもしれないな。



「眠い?」

「んー……はいっす」

「じゃ、寝ていいよ。俺は勉強してから寝るから」

「え。海斗センパイ、勉強してるんすか?」

「まあ。学年で10位以内をキープすることが、一人暮らしの条件だから」

「……大変っすね、センパイも」

「はは。慣れたよ」



 最初は大変だったけど、今は勉強しないと落ち着かなくなった。習慣って大事だ。



「じゃあ、私は先に寝るっす。おやすみなさい、センパイ」

「うん、おやすみ」



 俺の部屋に入る清坂さんを見送り、俺は座卓に教材とノートを広げた。

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