第80話 腐れ縁と密室で

「……すげぇ……」



 内装も和風モダンと言った感じだ。豪華さというか、上品さが溢れている。

 それに、玄関なのに涼しい。玄関にまで空調完備とか、贅沢な……。

 ソーニャが靴を脱ぎ、揃える。俺も一応揃えたけど、こいつ学校での大雑把さとは全然違うな。妙にしおらしいというか、大人しいというか。



「私の部屋は三階だから、エレベーター使うよ」

「エレベーター?」

「うん。階段だと疲れちゃうからね」



 若いうちから贅沢しすぎじゃない? こう言っちゃなんだけど、甘やかされてる感が半端ない。

 家の中にあるエレベーターに乗り、三階を押す。

 どうやらこの家は、地上三階、地下二階の計五階構造らしい。

 ソーニャ曰く、地下二階はホームジム。地下一階は父親の車庫になっているらしい。

 月藏家、とんでもない金持ちだ。

 三階に着くと、扉が三つしかなかった。

 一つはトイレ。一つはシャワールーム。そして一つが、ソーニャの部屋らしい



「お前、とんでもないお嬢様じゃん」

「えっへん!」

「なんで勉強出来ないの?」

「ぐさっ!」

「あ、悪い。今のは俺が悪かった。金持ちだからって、みんなが頭いいわけじゃないもんな」

「死体蹴り反対! はんたーい!」



 いてっ、いてっ! 脚を蹴るな、脚を!

 ぎゃーぎゃー騒ぎながらも、ようやくソーニャの部屋に到着。

 うっ、甘い匂い……というか、ソーニャの匂いが凝縮されてる感じがする。

 どこにいてもソーニャ、ソーニャ、ソーニャ。

 この感覚どこかで……あ、そうだ。純夏と添い寝したり、天内さんとハグした時だ。肺から脳まで、全部相手の匂いで支配される感覚。うぅ、慣れない……。



「んむ? ヨッシー、どーしたん?」

「い、いやっ、なんでもない」

「そ?」



 あ、危ない。匂いを意識してるとか知られたら、変態扱いされる。

 出来るだけ口呼吸を意識し、改めて部屋を見渡す。

 思いの外綺麗に片付いてるな。ソーニャのことだから、服を脱ぎ散らかしてたりしてるかと思ってた。



「綺麗な部屋だな」

「あー、部屋はかせーふさんがそーじしてるから、私はなーんもしてないよ」

「だと思った」



 期待を裏切らないソーニャさん、マジ尊敬するっす。

 荷物を置いて、ソーニャに勧められるままにソファーに腰をかける。

 うわっ、めっちゃふかふか。うちのソファーとは大違いだ。心の底から沈んでいく感じがする。

 それにしても……。



「広いな」

「二十畳かな」

「いや広いな!?」



 自室だけで二十畳は流石に驚いたわ。

 完全に俺の部屋の三倍以上ある。こんなの、テレビの豪邸紹介でしか聞いたことないぞ。

 部屋を見渡していると、ソーニャがコーヒーを入れてくれた。どうやら部屋に、コーヒーメーカーまで付いてるらしい。



「はい、どうぞ」

「あ、ありがとう」



 とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着こう。うん、そうしよう。

 ずずず……あぁ、美味い。



「じゃ、お隣しつれーしまーす」

「……え?」



 隣……隣?

 呆然としていると、ソーニャは密着するように俺の隣に座ってきた。



「あの、ソーニャさん……?」

「何きんちょーしてんの? 親のいない家に好きな男の子誘ったら、密着するのはじょーしきじゃん?」

「どこの星の常識だ」

「いーからいーから。どーせヨッシー、女の子に密着され慣れてるんだからさ」



 ソーニャはむすーっと俺を横目で睨んでくる。

 事実だけに、ぐうの音も出ない。

 でも一つだけ勘違いがある。



「確かに最近は色んな子と引っ付いてたりするな」

「ふん」

「でも、緊張しないなんてことはない。……普通緊張するだろ、女の子と密室で二人きりって」



 今は慣れてきてるとは言え、純夏と添い寝する時はまだ緊張する。天内さんとハグする時もだ。それに白百合さんに絡み酒される時も、花本さんにからかわれる時も。

 美女と一緒にいる時は本当に緊張する。

 美人は三日で飽きるなんて言葉もあるが、あれは嘘だ。全然慣れない。

 だからこうして密着されると、どうしても意識してしまう。

 俺のそわそわが伝わったのか、ソーニャも顔を赤くして少しだけ離れた。



「ふ、ふーん。そ、そう……」

「お、おう」



 なんとなく、お互い妙な雰囲気になっちまった。

 中学からの付き合いで、二人きりになることも少なくない。

 けどこんな空気になることはなかった。

 多分、ソーニャの気持ちを知ってしまったからだろう。

 こんな美人が俺のことを好き……未だに実感がないな。

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