第27話 ギャル友と懺悔

「いた!」



 ちょ、マジで速すぎ……! も、もう体力が……!


 駅近くの公園に入る。

 誰もいない寂れた公園だが、今はその公園に一人、女の子がいた。



「深冬ー!」

「へぼっ!?」



 わぉ、ナイスタックル。

 ベンチに座っていた天内さんごと、二人は反対側の茂みにダイブした。



「深冬、あんた何考えてんのさ! じじじじ自殺とかマジふざけんなし!?」

「ちょ、純夏さんっ、胸倉掴まないでっ……! し、死ぬっ………息が出来なくてっ、死ぬ……!」

「死ぬとか言うなーーーー!」

「ゆゆゆゆゆ揺ららららららららら……!?」



 茂みの上で揉みくちゃになっている二人。

 こんな状態でも絵になるくらい、二人の美少女レベルは群を抜いて高い。

 けど、このまま傍観してるわけにもいかないし。



「どーどー。清坂さん、落ち着いて」

「ぬあっ!? せ、センパイ! 襟首掴まないで欲しいっす! 服伸びちゃいます!」

「これ俺の服だろ」



 てか、こんなダルダルの格好でここまで来たのか。本当、思い切りがいいと言うか。



「けほっ、けほっ……ぱ、パイセン……? 何で海斗パイセンがここに……?」

「あー……それはまあ、色々あって」



 天内さんに手を貸して、茂みから起き上がらせる。

 二人をベンチに座らせ、髪の毛に絡まった草を取ってやることに。



「センパイ、ありがとうございますっす」

「あ、あざす……」

「これくらい大丈夫だよ。それで天内さん、どうしたの? 何かあったなら、相談くらいは乗るけど」

「ぅ。そ、それは……」



 ……まあ、ほぼ初対面の俺……しかも男に相談って、ちょっと厳しいよな。ここは清坂さんに任せた方が……。



「深冬、大丈夫だよ。センパイ、ちょー優しいからさ。絶対深冬の味方してくれるから」

「……ん、わかった。パイセン、聞いてくれる?」

「俺でよければ」



 とりあえず、近くの自販機で飲み物を買ってから話を聞くことに。

 俺はブラックコーヒー。清坂さんと天内さんは、甘々のココア。


 戻ると、二人は手を繋いで待っていた。どんだけ仲良いんだ。



「お待たせ。はいココア」

「あざっす!」

「ども」



 ココアを飲んで落ち着いたのか、二人は少しだけ笑みを零した。



「それで深冬。ほんと、どしたの。あんなに取り乱して……」

「……お母さんと喧嘩した」

「喧嘩って……いつもしてんじゃん。どうして今回は……」

「喧嘩はいつも通りだよ」



 天内さんは辛そうな顔を隠すように、笑った。

 痛々しく、苦しそうに。



「お母さん、私のこと産まなきゃよかったって言ってさ」



 思ってたより重い話だった。

 どうしよう、相談にしては重すぎる。



「これでも私、お母さんのこと好きなんだ。でもギャルの私をわかってくれないお母さんは嫌い。それで口論になってね」

「わ、私はギャルの深冬、好きだよ! ううんっ、ギャルじゃなくても、深冬は深冬だもん!」



 清坂さんが天内さんの手を握って励ます。

 天内さんも、辛そうな笑みを浮かべた。


 だけど──天内さんが求めてる言葉は、違う気がする。



「天内さん。それ、お母さんが全部悪いの?」

「ぇ……? せ、センパイ、何言ってんすか! 深冬は傷ついて……!」

「ごめん、清坂さん。ちょっとだけ聞いてて」

「ぅ……はいっす……」



 俺の言葉に、清坂さんは引き下がった。

 俺は天内さんの前に跪くと、震えている手をそっと握る。

 そのお陰かわからないけど、天内さんの震えが止まった気がした。



「天内さんの口振りを聞くと、お母さんって凄く優しい人なんじゃないかな。だって、お母さんのこと好きなんでしょ?」

「……うん……」

「口喧嘩はいつものこと。でも今日は、それ以上に踏み込んでしまった。……踏み込んじゃったことに、心当たりがあるんじゃないの?」

「…………っ……ひぐっ……ぅぅ……」



 目に溜まった涙が零れ、俺の手に落ちる。

 不安と後悔が一気に決壊し、涙となって流れ出る。

 そんな天内さんは、声を絞り出すように懺悔した。



「わ、わ、わだじっ……うんでほじいなんてっ、だのんでないっで……いっじゃっだあぁ……!」

「深冬……」



 メイクが崩れることも気にせず、まるで子供のように泣きじゃくる天内さん。


 でも俺の手は離さず、寧ろ力を強めて握る。

 その手を両手で包み込むと、大きな声を上げて泣いたのだった。

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