【発売中】拾ったギャルをお世話したら、〇フレになったんだが。
赤金武蔵
第1話 ギャルと雨
俺は今、人生の岐路に立たされていた。
場所は古びたアパート。
俺の一人暮らしをしている部屋の横に、濡れ鼠になっている女の子が一人、膝を抱えている。
染めているのか、明るい茶色の髪。
見たところ、うちの高校の制服だ。でも2年では見たことない。3年か1年だろう。
刻一刻と雨足が強くなる。
遠くで雷が鳴り、その拍子に女の子は体をビクつかせた。雷が怖いんだろうか。
さて、ここで俺には2つの選択肢がある。
1つ。無視して部屋に入る。
2つ。部屋に入れる。
1つ目を選択した場合、俺の良心がゴリゴリに削られるだろう。
2つ目を選択した場合、不審者扱いされて俺の社会的地位が死ぬ。
前門の虎、後門の狼。
考えること数秒。
──俺は、1つ目を選択した。
うん、無理無理。社会的に死ぬより、良心が削られた方がマシだ。
今見たことは忘れよう。さっさと風呂はいって……。
「くしゅんっ」
「…………」
「くしゅんっ、くしゅんっ」
「……………………」
「くしゅんっ。……ぅぅ……」
気が付くと俺は急いで部屋に入り、タオルとブランケットを手に戻った。
女の子の肩からブランケットを羽織らせ、びしょ濡れの髪をタオルで拭く。
「ぁぅぁぅぁぅ……?」
「大丈夫っすか? 立てる?」
ゆっくり顔を上げる女の子。
綺麗な空色の瞳が俺を見つめ、思わず息を飲んだ。
いや、瞳だけじゃない。まるで芸術家が造形したような端正な顔立ちと儚げな雰囲気に、柄にもなく心臓が高鳴った。
良く言えば絶世の美少女。
悪くいえば絶世のギャル。
とにかく可愛い。こんな子がいるなんて。
数瞬の沈黙。
直後、女の子は安心したのか、目から涙が零れた。
「……うぅ……うぇぇん……!」
あー、ダメっぽいなぁ。
とりあえず髪を拭いてやりながら、泣き止むのを待った。
女の子が泣き止んでから部屋に上げ、とりあえず風呂に入れた。
その間、制服はドラム式洗濯機に入れて洗濯と乾燥をさせる。
申し訳ないが、乾くまでは俺の服を着てもらおう。
今日の夕飯はオムライスにコンソメスープ、キャベツの千切りだ。コンソメスープなら冷えた体も芯から温まるだろう。
2人分の夕飯を作り終えたところで、浴室の扉が開いて女の子が入って来た。
置いといたドライヤーを使ったのか、フワッとしたウェーブの掛かった栗色の髪が揺れた。
ティーシャツとハーフパンツを渡したつもりだが、サイズが合わなすぎて全体的にダボッとしている。
けど、見てくれが良すぎてオーバーサイズの服を着たストリート系にも見えるな。
「あ、えと……」
「ん? どうした?」
……? ハーフパンツを押さえて、一体……あっ。
「腰周りが合わなかったら、端っこ結んでいいぞ」
「あ、ありがと……っす」
女の子は背を向けてゴソゴソと結ぶ。
それにしても、随分と綺麗な声だ。思わず聞き惚れてしまうくらい。
女の子はズボンの裾を結び、改めてこっちを見た。
目が自然と食卓に向けられると、可哀想なくらいでかい腹の虫が鳴いた。
「どうぞ。君の分も作ったから」
「え……い、いいんすか……?」
「うん。それに、そんな大きな音を聞かされてダメって言えないよ」
あ、お腹抑えて顔を真っ赤にした。
やば。今のはデリカシー無かったな。反省。
「さ、さあ食べよう。俺もついさっきまでバイトで、腹減ってるんだ」
「……うす……」
女の子が対面に座り、ちょこんと正座する。
俺が手を合わせるのを見て、女の子も手を合わせた。
「いただきます」
「い、いただきますっす」
スプーンを手に、おずおずとオムライスを食べる。
と、目を見開いてガツガツとかき込んだ。余程腹が減ってたんだろう。
俺も自分の分のオムライスを食べる。
うんうん、いい出来だ。卵もふわとろだし。
「まぐまぐ。……ぅ……まぐ。ぐずっ……まぐ、まぐ……」
女の子が食べながら涙を流す。
とりあえず今はそっとしておいてやろう。聞かない方がいいこともある。
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