第2話 ギャルと恐怖

「ご馳走様でした」

「ご馳走様でしたっす」



 綺麗に平らげてくれた。おかわりもあったが、それも全部。

 いやー、ここまで美味そうに食ってくれると、作ったかいがあったってもんだ。



「さてと、自己紹介がまだだったね。俺は吉永海斗よしながかいと。鎧ヶ丘高校の2年だ」

「き、清坂純夏きよさかすみかっす。鎧ヶ丘高校の1年っす」



 やっぱ後輩か。3年でこんな綺麗な人がいたら、間違いなく去年のうちに噂になってるだろうし。


 さて、この後どうしよう。

 まだ制服は乾いてないし、外は雨だ。それでなくても、時刻はもう23時。流石に女の子を外に追い出すほど鬼じゃない。


 でもなぁ、このままここに置いとくのはダメだろう。



「……聞かないんすね」

「え?」

「……私が、あそこにいたこと」

「聞いて欲しいなら聞くけど、どう考えても訳ありでしょ。なら聞かないよ」

「……あざす」



 清坂さんは安心したように力を抜いた。

 安心するのはいいんだけど、一応俺も男だから、警戒すべきところはして欲しいんだけど……あ、俺にそんなことする度胸はないぞ。何せ童貞だからな(悲)。



「えっと……それで、この後はどうする? 傘くらいは貸せるけど、帰れるか?」

「……帰りたくないっす」

「え?」

「……家、嫌いなんで」



 あ、あー。そういうタイプの人ですか。

 また面倒そうな……。



「それに──」



 ドッッッゴロロロロロッッッ──!!!!



「キャアッ!!」

「うぉっ」



 い、今のは驚いた。めっちゃ近くに落ちたな。

 ……ん?



「清坂さん、大丈夫か?」



 頭を抱えて亀みたいに丸くなってるけど。



「だ、大丈夫じゃないっす……! か、雷はダメっす……!」



 やっぱり雷苦手だったか。

 確か今日は一晩中雷雨って予報だったはず。そんな中女の子を外に出すなんて、流石になぁ。



「はぁ……じゃあ、今日だけは泊めてあげるよ。悪いけど俺のベッド使ってくれ。俺はこっちで寝るから」

「ぇ……い、いいんすか……?」

「まあ、仕方ないさ。幸い来客用の布団は常備してるから、俺はそっちで寝るよ。新品の歯ブラシはあるから、使っていいよ」

「……あざす……」



 清坂さんに歯ブラシと歯磨き粉を渡し、歯を磨いてもらってる間に見られちゃいけないものを隠す。

 男の子ですから、それくらいはね。


 寝室からリビングに戻ると、また雷が落ちた。

 停電、しないだろうな……?


 食器を丹念に洗う。と、クイッと服が引っ張られた。



「ん? ……清坂さん?」



 清坂さんが歯を磨きながら俺の服を摘んでいる。

 また雷が鳴った。

 それと同時に、服を摘む力が僅かに強くなる。

 雷が怖くて、1人じゃいれないってことかな。……ま、それなら仕方ないか。


 結局洗い物が終わるまで、清坂さんは俺の隣に立って歯を磨いていた。



   ◆



 俺も風呂と歯磨きを終えると、時刻はゼロ時を回った。

 明日も学校だから、流石にもう寝ないとな。



「それじゃあ清坂さん。遠慮なく寝ていいからね」

「あ、はい。あざっす」

「それじゃ、おやすみ」

「お……おやすみなさ──」



 ドゴォォォオオオオオッッッ──!!!!



「キャアアアアアッ!」

「ちょっ、清坂さん!?」



 おおおおお思いききききききだだだだだ抱ききききききききき!?!?


 ドンドンドンッ!!



「キャアアッ!」

「うっせぇぞォ! 今何時だと思ってんだァ!!」

「すっ、すんませんすんませんっ!」



 お隣のお姉さん、普段は優しいけど、夜中になると超怖いんだよっ。酔っ払ってるのか言葉遣い悪いしっ。


 とにかく、今はこの状況をなんとかしないとっ……!


 怯える清坂さんに触れないように手を上げ、極めて優しい声で話しかける。



「お、落ち着いて清坂さん。俺はここにいるから。ね?」

「うぅ……」



 目に涙を溜め、超至近距離で俺を見上げる清坂さん。

 くそ、可愛すぎるだろ、反則だ。

 何に対しての反則なのかは知らないけど。



「きょ、今日はもう寝よう。寝れば雷も怖くないから」

「……はいっす」



 清坂さんを伴い、自室に入る。

 ベッドに勉強机、それに漫画やラノベのしまってある書架。あとはちょっとした小物が並んでいる。


 清坂さんをベッドに寝かせ、布団を被せてやる。



「おやすみ。俺は隣にいるから、何かあったら呼んで」

「あ、ありがとうございますっす……」



 直後。また雷が落ちた。

 途端に清坂さんが、俺の手を掴んで布団に潜り込む。



「ちょっ、清坂さん……!?」

「か、海斗センパイっ。わ、私が寝るまで、ちょっとだけ傍にいてほしいっす……!」

「そ、傍にって……!」



 い、いくらなんでもそれは……!

 そう言おうとするが、布団の中でもわかる空色の瞳が俺を見つめる。

 ぷるぷる震え、今にも壊れてしまいそうだ。

 それにいきなり下の名前って、距離感皆無か。


 ぅ……うぅむ……。



「わ、わかった。でも清坂さんが寝るまでだからね」

「お、お願いっす……!」



 とりあえずベッドの傍に座る。

 手は離せない。というか清坂さん力強っ。全然離してくれない。


 その手を優しく握り返すと、清坂さんは目を開いて俺を見る。

 それで安心したのか、急に電池の切れたロボットみたいに動かなくなり、寝息を立てた。


 さて、俺もリビングで……んっ。あ、あれ?



「あ、あの、清坂さん……? 手を離してくれませんか……?」

「すぅ……すぅ……」

「き、清坂さ〜ん……?」

「すゃ……」



 ガチ寝してる……!

 まずい、これは非常にまずい。

 このままじゃ俺寝られないし、下手すると起きた清坂さんに変態扱いされかねない。


 どうしよう……。


 清坂さんに繋がれた手と安らかな寝顔を見る。

 こんな可愛い子に頼りにされるのは有難いけど……どうするよ、これ。

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