第32話 ギャルと一段落

   ◆



 起きると、時刻は既に十七時を回っていた。

 やばい、今日は寝すぎた。夜眠れるかな。

 寝室からリビングに出ると、玄関の方で清坂さんと天内さんが喋ってるのが聞こえてきた。



「あっ。パイセン、おは!」

「お、おはよう。ごめんね、今日は一日寝ちゃって」

「んーん。純夏といっぱい話せたから、問題ないよ!」



 その言葉に、清坂さんが顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 え、何? なんの話をしてたの?



「じゃ、私は帰るよ。昼間のことがあったし、早く帰ってお母さんを安心させたいから」

「わ、わかった。深冬、またね」



 なんだ、本当にいい子じゃないか。なんでギャルしてるの、この子?



「じゃあね、天内さん」

「ういーっす。パイセン、また明日も来るんで」

「え、本当に来るの?」

「当たり前じゃん。私、パイセンのハフレだよ? ガッコーじゃ人目があってハグは難しいし、ここくらいしかないじゃん?」



 別にハグのために来る必要はないんだけど。

 でもまあ、いいって言っちゃったし、ここで突っぱねるのもなぁ……。



「はぁ。わかった、いいよ」

「にししっ。パイセン、話が早くて助かるーっ。じゃー……はいっ」



 と、満面の笑みで俺に向けて腕を伸ばしてきた。



「えっと……?」

「何してんの? ほら、ハグ!」

「え」



 は、ハグ? ここで? 清坂さんの見てる前で?

 慌てて清坂さんを見ると、キョトンとした顔で俺を見ていた。



「センパイ? ほら、ハフレなんだから、ハグしないと」

「え、ええ……?」



 この状況に着いていけないの、俺だけ? なんで冷静なのこの子達。

 というか俺、なんで清坂さんの顔色を伺ったんだ……? あーでも、清坂さんとはソフレだから、心境的にちょっといたたまれない……とか?


 ダメだ、自分のことなのに全くわからん。



「パイセーン、はーやーくー」

「うぅ……そ、それじゃあ……」

「ぎゅーっ」



 う、ぐっ、うお……! 清坂さんにも負けず劣らずのデカいお胸様が、俺の体で形を歪めている……!

 何だこれ。何で俺、自分の部屋でギャルと抱き合ってるんだ……!



「むぅ。パイセンからも抱き締めて欲しいんだけどー」

「む、無茶言うな……!」

「……ま、今はこれくらいで許してあげましょう」



 ほ、やっと離してくれた。

 小さく息を吐くと、天内さんは今度は清坂さんとハグをする。

 二人のお胸様、歪みまくって大変なことになってんだけど……。


 二人は抱き合ったまま、満足そうな顔をした。



「はふ。いいね、ハグ。私もハマりそう」

「あっ、それならパイセンと純夏もやったら?」

「えっ!?」

「ほらほらっ!」



 天内さんは清坂さんから離れ、背をこっちに押す。

 流石に恥ずかしいのか、前髪を直すふりをして目を逸らされた。



「あ、天内さん。俺らはソフレであって、ハフレじゃ……」

「じゃあハフレにもなればよくない? 別に二つはダメなんてルールはないし」



 いやそうだけどね? でも、その……なんか天内さんとは違う恥ずかしさがあるというか……。


 どうしよう。これ、俺から行った方がいいんだろうか。

 でも清坂さんが嫌がるんだったら、それ以前の問題だし……。



「き、清坂さんはどうなの……?」

「わ、私は、大丈夫っすよ……? い、い、いつでもっ、バッチコイっす……!」

「そ、そっすか」

「はいっす……」



 ダメだ。逃げ場を失った。



「かーっ。パイセンはチキンだなぁ。ほら、純夏」

「う、うん。それじゃ……えいっ」

「うぉっ」



 唐突に、清坂さんが俺の体に腕を回した。


 密着する体と体。

 清坂さんは顔を伏せているから、どんな顔をしてるかわからない。

 でも、嫌そうじゃないのは密着具合から伝わってきた。



「せ、センパイも、ぎゅーって……」

「う、うん……」



 あまり力を入れないように、体に手を回す。

 ……あれ? なんかあまり緊張しないな。むしろ安心するような……あ、そうか。いつも添い寝してるからか。


 ……改めて思うけど、本当に不純な関係だなあ、俺ら。



「にしし。じゃ、帰るわ。まったねーん」

「あ、ちょっ!」



 ……本当に帰った。俺らを残して。

 抱きついたままの清坂さんと俺。

 清坂さんは離れる気配はないし、どうするよ、これ。



「センパイの心臓、ドキドキしてます」

「そ、そりゃそうでしょ。こんな状況じゃ……」

「ふふ、そうですね。でも何ででしょう……安心と幸せを感じてます」

「……実は、俺も」

「私ら、ハフレの才能もあるんすかね?」

「そんな才能欲しくなかった」



 でも、なんとなくその気持ちもわかる。

 こう言っちゃなんだけど、ある意味で体だけの関係だよなぁ……不純だ。


 そんなことを考えていると、清坂さんがグイッと俺を押して距離を取った。



「す、すんません、センパイ。今日、先にお風呂入っていいっすか?」

「え? ああ、構わないけど……」

「あ、ありがとうございますっす……!」



 パタパタと浴室に入っていった清坂さん。


 出てきたのはその二時間後。

 随分と長かったけど、どことなくスッキリした様子なのはなんなのだろう?



「長かったね、大丈夫?」

「あ。す、すんませんっ。その……久々で気持ちよかったというか、やり過ぎちゃったというか……ごにょごにょ」

「え?」

「な、なんでもないっす!」



 布団の中に潜り込んでしまった。

 やり過ぎたって……何してたんだろう?

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