第85話 ソフレとハフレ

   ◆純夏side◆



 いつの間にか夜中の二時を回っている。

 けど……なんか、寝付けない。

 深冬はもう寝ている。深冬のすごいところは、どんな場所でもすぐに眠れることだ。

 でも……私は、そうじゃない。

 深冬が隣にいたら、添い寝っぽいから眠れるかと思ったけど……違った。

 やっぱり私は、カイ君の隣じゃないとダメなんだ。

 深冬を起こさないようにゆっくり起き上がり、寝室からリビングに入る。



「カイ君、起きてるっすか……?」

「ぇ……純夏?」



 ふふ、やっぱり起きてた。

 薄暗い中、カイ君は驚いたように起き上がると、深冬を起こさないように小声で話しかけてきた。



「どうしたの? 何かあった?」

「あったというか、むしろないというか……」

「え?」

「まあまあ、まずは横になりましょうっ」



 カイ君の肩を抑えて横にする。

 私も隣に横になると、腕を枕にした。

 はあぁ……近い。やば、顔がいい。それにカイ君の匂いと温もり。

 これこれ、これがなかった。

 これがないと、どうしても寝付けないというか、眠れないというか。

 カイ君も同じ気持ちなのか、ちょっと安心したような顔になっている。



「やっぱり眠れなかったんすね。私が隣にいないから」

「そ、そんなことない。ちょっと眠気が来なかっただけで……」

「でも今は?」

「……眠い」

「ふふ、私もっす」



 カイ君はぐぬぬって顔をし、そっぽを向いた。

 そう、私たちはもう戻れない。

 もしカイ君がいなくなったら……なんて、とてもじゃないけど想像できない。

 できないけど……少し、寂しい気持ちになった。



「カイ君。ちょっとお話したいです」

「え、十時にソーニャの家なんだけど。そろそろ寝ないと、朝がキツいよ」

「いーじゃないですか。ちょっとくらい夜更かししても大丈夫ですよ」

「……まあ、純夏が言うなら大丈夫か」



 やれやれって顔で、カイ君も横向きになる。

 真っ直ぐで、優しい笑顔。なんでこんな顔ができるのかわからない。

 普通こんな可愛い美少女がいたら横で寝てたら、もうちょっと野獣になってもいい気がする。ならないの? しゅん。

 でも……こうして近いところで、一緒に夜更かしをする。

 そんな毎日も、悪くないよね。



   ◆深冬side◆



「……いやぁ……なんとまあ幸せそうな」



 朝の七時に起きてきたら、見事に爆睡している海斗くんと純夏がリビングにいた。

 純夏が海斗くんに抱きついていて、口をもにょもにょさせている。

 うわぁ……こんな純夏、初めて見たかも。

 かてー環境のことは知ってたけど、まさかこんな安心しきった顔を見れるなんて。

 とりあえず写真をパシャリ。そして純夏に送信。

 まだ時間もあるし、起こすのは可哀想だなぁ。

 れいぞーこの中は勝手に使っていいって言ってたし、先に海斗くんの朝ごはんでも作ろーかな……。



「すぅ……すぅ……」

「くかぁ……むにゅ……」



 …………イラッ。

 なんかイラッと来ちゃった。幸せそーな顔をして……ずるいぞ、純夏。

 海斗くんに絡みついている純夏の脚を外す。まだ起きない。結構夜遅くまで起きてたみたい。

 そんな純夏を横目に、私は海斗君の上に座った。

 ……じじょーを知らない人が見たら、完全にやべー絵面だけど、気にしない。

 そのまま海斗くんの胸にぽすっと収まる。

 ……やべ〜。溶ける〜。

 ハフレとしてハグするのは日常になってるけど、この瞬間は幸せがやばい。

 こんな美女二人と寝て、しかも他にも海斗くんを好きな人がいるなんて……この人、前世でどんな徳を積んだんだろう。



「うりうり。海斗くん、この幸せ者め」

「すぅ……ぅぎっ……むぁっ」



 ほっぺをつつくと、眉間を狭めてうめく。

 くそぅ、可愛いなぁ。

 しばらくつついていると、海斗くんの目がぴくぴく動き出した。

 そして……パチッ。あ、起きた。



「おはよー、海斗くん」

「ん……おはよ、天内さん……」



 すっごい眠そう。まだぽけーっとしている感じ。

 そんな海斗くんもかわいーんだけどさ。



「……ぁれ、天内さん……なんでここに……?」

「起きたんだよ。もー七時だし」

「七時……もうそんな時間なのか」



 ……なんか、慣れてるみたいで腹立つ。

 あ、そっか。いつも純夏と添い寝してるから、起きて女の子が近くにいるのに慣れてるんだ。

 むぅ。ウチだって純夏に負けないくらいかわいーし、えっちな体してるんだけどなぁ。

 と、海斗くんは何かを思い出したのか、「あ」と声を漏らした。



「そっか。はい、ぎゅー」

「にぎゃ!?」



 ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅー!? ぎゅーって!?

 いきなりハグされて、深冬ちゃん大混乱だよ!?

 海斗くんはばっちり目が覚めてるみたいだし、きょとんとした顔で首を傾げた。



「あれ? ハグしてほしいからここに来たんじゃなかった?」

「そうだけどっ……う、うぅ! ばか!」

「唐突に何を!?」



 うっさいうっさい! ばーかばーか!

 ウチは立ち上がると、頭を冷やすために洗面所へ向かった。

 うぅ~! 海斗くんめぇ……!

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